対決

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「で、残りの三千万を手にあんたはカナダへ。仮に逮捕されてなくても、彼らの頭じゃ辿りつけないわよね。向こうの友達にかくまってもらいながら永住権でも得て、第二の人生を歩もうとしたんだ? ……でも、失敗しちゃったわね」  あやがきっと松樹を睨みつける。だが、松樹は満面の笑みを返した。 「一世一代の大勝負に出たけど、大失敗。ま、最初からうまくいくはずがなかったけど。しょっぱい作戦だったわね。警察でもない私ですら分かっちゃうんだから。アホよ」 「……言わせておけば――」 「ねえ、どう? 今の気分は?」唇をわなわなと震わせながら怒りをこらえているあやの、その悔しそうな顔を松樹が覗き込む。「何もかも失って刑務所に入る気分はどう? 友達と遊んだり好きなラーメン食べられずに年とってく気分はどう? 出所してきて周りに後ろ指さされながら生きてく気分はどう?」 「あんたに何が分かんのよ!」  ついにあやが声を荒げた。歯を食いしばりながら松樹の襟を掴んで引き寄せる。  その顔には清楚さなど欠片もなかった。知的なメガネの奥にある目を見開き、今にも噛み付きそうに口を開いたその姿は、まるで夜叉だった。 「毎日毎日うまくもないあんな菓子ばっか作って! 何が楽しくて料理の専門学校なんて行かなきゃいけないのよ!」  杉元は二人の間に入らず、そのまま続けさせた。 「あー、そうよ! あたしが全部やったのよ! あのバカどもを騙して手伝わせてやったわ。何話してもひとっつも理解しないから、全部計画立ててやったのよ! 誰が好き好んであんなバカと寝ると思う? 全部このお金のためよ!」 「やっと喋ってくれたわね」松樹がポケットの中をまさぐる。「それにね、着いたみたい」  松樹は襟を掴んでいたあやの手をそっと振り払うと、後ろを振り返った。  三國ともう一人のスーツを着た男性が、行き交う人の波をかき分けつつこちらへ向かってくる。  不穏だが切羽詰まった状況でもない三人のうち一人――あやを見て、三國が訝しげに眉を潜めた。 「五千万のバッグを持ってたって……この子かが?」  いつ連絡したのか分からないが、まだ情報は足りていないらしい。とりあえずと、杉元はもう一人の刑事にボストンバッグを渡した。受け取り中を確認して頷く。 「刑事さんですか?」
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