エピローグ

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 憎悪、悪意、裏切り。そんな世界の住人たちが作り出すグレーな世界へと飛び込んでいき、薄汚れた泥沼のような中から、黒か白かを選り分けていくのだ。  黒かと思えば白だったり、白とも思っていなかったものが実は真っ黒だったり。  人間の色を見極めるためには、経験と知識が圧倒的に足りていないと感じた。  もっと、もっと深く知りたかった。なぜ人は犯罪を犯すのか。どうして踏みとどまれなかったのか。 「はあ……」  再び画面を開き画像を消すと、杉元はぼんやりと仕事のメールを見だした。眺めているうちに、杉元は今回の関係者に通じる共通点があったことに気づく。  皆、順番を間違えているのだ。  人々の意識を変えたいなら、声を上げ、仲間を募り、増やしていけばいい。多数の味方をつけ、その声を大きく、広くしていけばいいのだ。しかし、黒田たちは外国人のテロを装うという近道を行ってしまった。  ラーメン店の経営で失敗したのなら、もう一度、一から始めれば良かった。味を見直し、集客方法を検討し、模索を続ける。だが西谷は、最終的な目標である金を得るということだけに集中し、同業者に恨みを買うような真似をした。再起を目指していた有川も、その欲望には負けてしまったのだ。  木崎あやはその最たるものだろう。彼女は父親の支配下から逃れるために、店の改装資金である一億を奪ってカナダへ逃げようとした。だが――と、杉元は嘆く。  どうして彼女は父親と真正面からぶつからなかったのだろうか。犯罪に手を染めるほど嫌なことなら、そのエネルギーを父親との交渉に向けられたはずだ。  どうして手順を踏まなかったのか。それが普通ではないのか。  何をしてもすぐに結果が、反応が得られる今の風潮がそうさせたのだろうか。 「ははは……」  杉元は思わず笑ってしまった。  他人事のように考えていたが、自分と松樹も例外ではないと気づいたからだ。  二人の男女が出会ったのなら、何度も会話を交わし、デートをして共感できるポイントを探して、お互いの心に触れるような語り合いを重ねたあと、結ばれるものだろう。だが、松樹とはいきなりベッドに入った後、お互いの裸を見、性癖を暴露して、なぜそうなったかの深い話をしあって――キスしたのだ。
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