エピローグ

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「――杉元さんを懲戒処分にしないでください。違う部署の職員が犯罪を止める手伝いをするのが罪になるなら、そんな警察はいりません。もし解雇したら、警視庁に荒川中央警察署の解体を要求します……どうしてこんなものが?」 「杉元くんより少し早く来てね。びっくりしたんだよ。こんなファクスとメールが千通ぐらい届いてたそうなんだ。それに、うちの公式エンカウントがあるよね?」 「公式アカウントですね」 「そう。その公式エンカウントの担当者が悲鳴を上げてたよ。苦情を捌き切れないって」  ネットに詳しくない課長の話を確認すると、こういうことだった。  杉元と犯人二人の格闘している動画がコメントつきで大量に流されていたそうだ。それ自体は他にたくさんあったものの、うち一つにこんなコメントがつけられていた。 「犯人を取り押さえた彼ですが、所属が交通課だったため、職権を超え連携を乱したと見なされ世論を恐れて辞職勧告されるようです。市民を守った職員をクビにする――そんな警察に街の安全を任せられますか? そんなことをさせないでください。抗議の連絡先はこちらです」と、荒川中央警察署のファクス番号とマイクロブログのアカウント名が記されていたという。  最初の投稿は一昨日の夜で、そこからゆっくりとではあるが、着実にその数を増やしていったそうだ。  それは最悪の場面で露見してしまった。秋葉原無差別射殺事件の記者会見で全国紙の新聞記者がこの件について尋ねたのだ。当然ながら警視総監の耳にも入り、結果として湯島が弁明に追われ、警察全体のイメージを重視した結果――不問に処することとなったらしい。  杉元は思わず笑いそうになった。  あれだけ暴力警官だと罵られ、自分を追い詰めたネットに、今度は救われてしまったのだから。 「松樹さんに情報を漏らした点はどう扱われたのですか?」 「署長の弁だと、彼女は情報提供者であって、捜査に協力していた関係上やむなしとされたようだよ」 「なるほど……どうとでもできた、ということですね」 「まあまあ」若干苛立ちかけた杉元の肩に、課長が優しく手を置く。「私たちは杉元くんが正しいことをしたと思っているよ。今回も、昔も……そうじゃなかったらかけあわなかったからね。先輩の息子だからじゃなくて、うちの署員として」 「ありがとうございます」  また深く頭を下げた杉元の肩をぽんぽんと叩く。
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