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「SIMも入っていないところを見ると、どうやら電話として使われていなかったようですね。他に携帯か何かを持っているはずなのですが」
「ってことは、おもちゃか?」
「ゲームの類も入っておりませんでしたし、おもちゃとしても使われていなかったようですね」
「じゃあ、何に使ってたんだ?」
「それを今から見てみましょう」
そう言って椅子に腰を下ろした杉元は、リュックの中からタブレットを取り出しUSBケーブルを遺留品のスマホに接続した。
起動したデバッガにスマホを認識させ、コマンドでディレクトリを見ていく。探しているのは最近作成されたり更新されたファイルだった。
何の使い道もない道具を持ち歩く人間はそういない。何かしら使用した痕跡があるはずだ。
「……あった」
そうして見つけたのは、圧縮ファイルだった。すぐに自分のタブレットへとコピーして中を開いてみようとしたものの、パスワード入力を促す画面が表示されてしまう。キャッシュが残っているかも知れないと探したが見当たらず、お手上げとなった。
それでもファイルの一覧は見ることができた。ファイル名の拡張子から画像だと分かり、その命名規則から、おそらくこのスマホで撮影した写真であることも推測できた。
更新時間を見ると夜が多く、昨日、日にちが変わるあたりでも十数枚撮影していたことも判明した。
「どうやらデジカメ代わりに使用していたようですね。二年ほど前から撮りためた写真を保存しているようなのですが……暗号化されていて開けません」
「解読できねえのか?」
「数学者でも技術者でもない、一介の警察官ですよ? ……ですが、方法がないわけでもありません。パスワードの長さによっては無理かも知れませんが、解析ソフトがあるので、それで試してみることもできますが……どうしますか?」
「他に方法もねえし、科捜研に頼んでも時間かかるだろうし……ダメ元でやってみてくれねえか? 俺はあの姉ちゃんから聞いた店と現場周辺の聞き込みをしてみるからよ」
「分かりました。それでは仕込みだけしますので、終わったら帰りましょう」
そうして杉元は一階の交通課に向かい、自席のノートパソコンに圧縮ファイルを転送すると、解析ソフトを起動させスタートさせたまま放置し――玄関で三國と合流して署を後にした。
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