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「そうなんですよ。月曜日に取材した時、すっごく寛げそうな雰囲気だったのを思い出したんです。おじさまの好きな日本酒もたくさん置いてありますよ。ここのハムポテトサラダがおいしいんです」
「よーし! ちょうど新一も来たことだし、このまま入っちまうか」
そう言って、一治は暖簾をくぐって店の中に入っていった。
残った二人の視線が合う。
「ええと……何て言うか……」
「挨拶もしないで出て行く礼儀知らずな女じゃないわよ? もう……勘違いも甚だしいったらありゃしない」
その言い回しに、杉元はむっと口を曲げた。
「そもそも、松樹さんのメモが分かりにくかったのが原因なのですよ? すぐ戻ることを『またくるわ』とは書きません。それでもブロガーなのですか?」
「……『どこにも行かないで、うちで一緒に住んでください』って言ったのはどこの誰かしら?」
「う……」
もうダメだ。また顔が火照ってしまい、思わず俯いてしまう。
「だけど、嬉しかったのは本当よ。だから、友達から始めましょ」
そう言って、松樹は笑った。
「はい。友達からでお願いします」
「それなら」松樹はそっと杉元に寄って、つま先立ちして背伸びしながら――その頬にキスをした。「まずは友達として。次は恋人としてできるように頑張りましょ。お互いに」
そうだった。
乗り越えるには大変なハードルがあるのだ。
でも、乗り越えられそうだった。
松樹と一緒なら、何でも越えていけそうな気がする。
店の奥から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
二人が顔を見合わせて笑う。
そして二人は一緒に暖簾をくぐり――店へと入っていった。
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