フードジャーナリストのチカラ

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フードジャーナリストのチカラ

 翌日。遅くまで起きていたせいか少し寝ぼけていた頭にはちょうどいいぐらいの事務処理が続き、ようやく思考回路がはっきりとしてきた昼休み前。  杉元は、署に戻ってきた三國から誘われて昼食をとりに外へと連れ立った。 「暗号は解けたのか?」 「解析のことですか? まだ一生懸命やっておりますよ。そちらはどうだったのです? お店は開いていましたか?」  二人が入ったのは荒川中央警察署から目と鼻の先にある小さな中華料理屋だった。署から一番近いことが逆に足を遠のかせているらしく、ほぼ満席に埋まっている店内に署員の姿はなかった。  杉元は一番安い野菜炒めを、三國はエビチリとチャーハンを注文する。 「午前中に行ってきた。確かにあのフードジャーナリストが言ってた通りドライフルーツの羊羹が売っててな、中にイチジクとリンゴが入ってて、他にはない菓子だ紹介されたよ。試しにその羊羹ゼリーセットなるものを食ってみたが、そこそこ旨かったぞ。ああ、いちご大福は買ってきてないからな」 「大丈夫ですよ。昨日ので一週間はもちます。活力的な意味ですよ? それに、あそこでいちご大福を買うと高校生ぐらいの店員さんに訝しがられますから、気をつけてください」 「そりゃお前だけだ。でも今日はいなかったな。可愛いのか?」 「僕に聞く質問ではありませんね。そんなことより身元は分かりましたか? 甘味好きの常連がいたとか」  すぐにやってきたエビチリを一切れ頬張りながら、三國が首を横に振る。 「羊羹さんの写真を見せて店員全員――つっても、おばちゃんとやたらガタイのいい男だけだったけどな、聞いてみたがまったく知らねえとよ。ま、それもしょうがねえけどな」 「一見さんだったということでしょうか」 「新一も行ったんなら覚えてるかも知んねえけどよ、平日の午前中だってのに結構客が入っててな。回転率も悪くねえ。よっぽど目立つ客じゃねえ限り、覚えてらんねえだろうな」 「そうでしたか。圧縮ファイルの解析はまだですし、お手上げなのでしょうか」 「そうなると、俺にできるのは現場の聞き込みだけっつーことだな」ようやく来た野菜炒めを一口食べた杉元が首を傾げる。「もしかして、まだ僕の手伝いが必要ということですか?」 「ご名答。課長からもきちんとお許しが出たしな。久々だし、いいだろ?」 「ええ、もちろんです。それで僕はいったい何をすればよろしいのですか?」
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