フードジャーナリストのチカラ

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「昨日、話を聞いた女がいただろ? あのジプシーからまた話を聞いてもらいたくてな」 「は?」  口元へ運ぼうとしていた白飯を思わずこぼしそうになる。何を企んでいるのか。杉元は不敵な笑みを浮かべた三國を見つめた。 「僕の第一印象が悪すぎたのを忘れましたか? 色々嫌味も言われましたし」 「でもよ、あの女のブログも知ってたし、いちご大福の下りじゃまんざらでもない顔してたぜ? 全部ひっくるめりゃプラスだろ」 「そういうものですか」 「そうなんだって。そこでな。頼みたいことは――今朝、遺体が発見されたあたりを調べてたら、側溝の隅に最中が捨てられてたのを見つけたんだ。新しすぎるし、中身も手をつけられてなかった。鑑識に頼み込んで指紋だけ見てもらったら、羊羹さんのと一致したんだよ」 「なるほど。それがどこの店のものか、あの方に聞いてこいということですね?」 「フードジャーナリストなら何か思い当たるかも知れねえしな。電話で聞こうにも実物は見せらんねえし、頼むわ」 「健次郎の携帯にも写メがついているではありませんか」 「あんな荒い画像じゃ限度があんだろ? 送り方もまだ分かんねえし。俺は聞き込みしてくるからよ。頼むわ」 「署に呼べばいいではないですか」 「うまいもんでも食わせて機嫌とっといてくれよ。一時に日暮里駅前の喫茶店で待ち合わせって言ってある」  しかし――と口を開きかけた杉元を、三國が目で制した。断りきれない。三國の気持ちや交通課長の配慮を無碍にできないという気持ちが出てきたからだ。 「……分かりました。行きますよ。行って仕事はこなしてきますが、他のことには期待しないでくださいね。色々と」 「よーし、決まりだ。んじゃ、さっさと食っちまおう」  かき込むようにして食事を済ませた二人は一旦署に戻り、すぐに公用車へと乗り込んで日暮里へと向かった。駅にほど近い駐車場に車を停めると、杉元は三國から渡された白い紙袋を持って、一人駅前へ向かう。  平日とは言え、ターミナルとなる日暮里駅の周辺はそこそこの人出があった。成田に繋がる京成本線があるからだろう、スーツケースを引いたサラリーマンや大きなリュックを背負った外国人の姿も少なくない。  これでは探すのに難儀するかと思っていたが、松樹の姿はすぐに見つかった。ひときわ大きなオレンジ色のスーツケースを大変そうに引いている姿が悪目立ちしていたからだ。
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