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少し興味が出てきたのだろう、松樹が何か質問しようと口を開きかけたところに――店員が皿を持って現れた。彼女はコーヒーを杉元の前に、いちご大福と抹茶、それにあんみつを松樹の前に置いて去っていく。
予期せぬタイミングで来てしまい、杉元は思わず息を飲んだ。
「……っ」
視線を逸そうとしたが、時既に遅し。いや、理性ではそうしようとしていたのを本能が押し留めてしまったのだ。
それは、どこにでもあるいちご大福の形をしていた。白い皮に包まれ中の餡がうっすらと見える。ほんのり赤く透けているのはいちごだろう。
透き通る肌に浮かぶ血管のようだ。若々しい生命がそこにあるということを明確に物語っている。
杉元の意識は一瞬にして飛んだ。
視界に現れたのは、スクール水着を着けた一人の少女だった。
抜けるような青空の下、ショートカットの少女は凪いだ波の海で水遊びをしている。少し焼けた肌はスポーツ好きで活発な性格を思わせた。
どこにでもいそうだが、それは没個性なのではなく、まだ自分というものを見つけられていない若い輝きがそう見せているからだ。
少女は波の上でくるりと回ると、海の中へ潜っていった。水面から差し込んでくる光を受けて髪と肌がきらめく。それはまるで人魚のようだった。
「な、何よ。そんなジロジロ見つめちゃって。欲しいなら自分で注文したら?」
その声で、杉元は一気に現実へと引き戻される。
目の前にあったのはあの少女ではなく、眉間に目一杯の皺を寄せた松樹の訝しげな顔だった。
「何か、すんごい気持ち悪い顔してたけど……」
「……不細工なのは生まれつきです。それは大変失礼しました」
気づかれてはいけない。努めてぶっきらぼうに返す。
「別にそこまで言ってないじゃない。食べていいんでしょ?」
「ええ、どうぞ。ゆっくりと味わってください」
「……変なの」
そして二人は無言になった。松樹は料理の写真を撮り、一口味わってはスマホに何かメモを取っている。後でブログにでも載せるのだろうか。
その様子を見て杉元は安心した。気を遣う必要がなさそうだったからだ。そのつもりもなかった。松樹とは今日を最後に会うこともないからだ。
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