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「え?」福屋は自分のスマホを確認して、恥ずかしそうに頬を染めた。「す、すいませんス。来週の土曜日にやるイベントのチラシで、あまり可愛いもんで保存してたんス。……ちょっと待ってください」
どうやら見せる画像を間違えたらしい。福屋は慌てながら探しだす。そんな後輩を見て、杉元が苦笑した。
「そのイベントにも行かれるのですか?」
「もちろんっス。今回は二列目組の子たちが出てきてチラシを直に配るんスよ。頑張ってチケットも取ったし、シフトも交代してもらって万全っス」福屋がはっとして顔を上げた。「もしかして、先輩も興味出てきたんスか?」
「いえ、僕にはまだ早すぎます」
「早い?」
「まあ、そういうことです。……ところで、見つかったのですか?」
「あ、ええと……」ようやく目的の画像を見つけたらしい福屋が、再びスマホの画面を見せた。「これっス。何が起きてるか分かります?」
それは、液晶ディスプレイを撮影した写真だった。
「これは……パソコンの画面ですね。エラーが出ているようですが」
「ウィルスじゃないんスか?」
「いえ、違うようです。メッセージを見ると、ソフトウェアに必要なライブラリーがないため、表示されたもののようですね。特に心配する必要もないはずです」
「あー、良かった」ほっとため息をついた福屋が、スマホを胸ポケットにしまう。「本署からの書類を開くのに何かのアプリを入れろってメッセージが出て、先輩がいじってたらこれが出ちまったんス。ウィルスにかかったっつって騒いでて、すぐ後ろのケーブル引っこ抜いて電源切ったんスけど、総務に聞いても訳分かんなくて」
「通常、抜くのはLANケーブルで、電源ケーブルではありませんよ。そんなことをしたらパソコンが壊れてしまいかねません」杉元は苦笑した。「まったくもう……僕は交通課勤務をしている、ただの一警官なのですよ? システム屋ではありません」
「それは分かってるんスけど、うちの署で一番詳しいのは杉元先輩なんで……もうオフなんスよね? ついでに、そのエラーをやらを直していただけると、助かるんスけど……お願いします!」
制帽を脱いで頭を下げた福屋に、杉元は困ったように頭を掻きながら苦笑した。
「先輩方に命じられてやってきたのでしょう? 僕も家に帰るだけですし、可愛い後輩の頼みとあれば断りません。行きましょう」
「助かります!」
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