フードジャーナリストのチカラ

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 そもそも今回の聞き取りも、三國が余計な気を回してセッティングした茶番に過ぎない。何とかしてこの性癖を直させ、リアルの女性に目を向けさせよう――そんなことを父親と二人で画策しているのを知っていたからだ。  しかし、物心ついたと同時に覚えてしまった鮮明な記憶とそこからこみあげてくる感情、それらをベースに生きてきた青春時代の経験から作られた性格は、そう簡単に変えられない。  それは杉元自身がよく知っていた。  どの道、この松樹という女性は自分に対してあまりいい印象を持っていないだろうし、こちらとしてもフードジャーナリストという職業とその人間性に興味もなかった。  他にやることはない。彼女には何の気持ちも湧かなかったと三國に言おう。そう思って顔を上げた時、いちご大福を平らげて満面の笑みを浮かべながら抹茶に一口つけた松樹が口を開いた。 「ところで、これから銀座に行くんでしょ?」 「え? ええ。そうなのです。なので、そろそろこの辺で――」 「私もついてくから」  その申し出に、杉元は目を丸くした。 「どうしてでしょうか?」 「どうしても何も、二回も話聞かれたじゃない。それに今回は身元が分かるかも知れない情報を教えてるのよ? もう関係者でしょ? ついてかせてよ」  どうやらジャーナリストとしての本性を現したようだ。 「残念ながらそれは無理です。松樹さんの情報提供には感謝しておりますが、こちらも一人の方が亡くなっている事件の捜査なのです。おいそれと一般の方を連れていくわけにはいきません」 「……二人だけで話聞けるかなあ」  また抹茶に一口つけた松樹がニヤリと笑う。不気味だった。 「ただお話をお聞きするだけです。別に容疑者の尋問をするわけではありませんし、つつがなく聴取できるでしょう」 「ま、やってみてよ」 「ええ」意味有りげな微笑みの理由を聞きたかったが、どうせハッタリだろうと判断して席を立つ。「お約束通り支払いは済ませておきますので、ごゆっくりとなさっていてください」 「ごちそうさま。頑張ってね」  にこにこと自分を見送るその視線に若干苛立ちながらも、杉元はレジで会計をし、下で待っていた三國と合流する。
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