フードジャーナリストのチカラ

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 当然のようにどうだったと聞かれて首を横に振った杉元を連れて、公用車に戻った三國は車を銀座へと走らせた。上野から秋葉原を抜けて新橋の駐車場に車を停めると、スマホで地図を確認しながら杉元の案内で喰屋の住所へと向かう。  その店は、銀座駅から新橋駅に向かって歩くとちょうどその中間あたりにあった。線路沿いに並ぶ無機質な灰色をした雑居ビルの中、やや狭い路地にさしかかると、一階に小料理屋のような構えをしたテナントの入っているビルが見えてくる。かかっている暖簾には青地に白い文字で「喰屋」と書かれていた。  三國が腕時計に目を落とす。時刻は二時になろうという時間だった。 「すごいですね……」  それなのに――と、杉元は店の入口から伸びる行列に圧倒されていた。暖簾を先頭にした人々のつながりが、時おり白い息を吐きながら百メートルは伸びていたからだ。 「いや、ホントにすげえな。さっきの話だと予約制なんだろ? どうしてこんなに並んでるんだ?」 「さあ。こういうものに並んだことはありませんから」  まあいいかと、二人は行列の脇を通って店に向かう。並んでいる客たちの視線がいっせいに二人に向けられた。中には睨みつけるような人もいる状態で店内に入る。  そこは四畳半ぐらいのスペースだった。一台しかないレジで和服姿の女性店員が忙しそうに客と金のやりとりを行っている。その傍らで、店主なのだろう、割烹着のような白衣を着たごま塩頭の初老の男性が品物を準備しながら、客に笑顔で話しかけていた。 「間違いないな」  カーキ色の紙箱を白く小さい紙袋に入れているのを見て、三國が確信したように頷く。その声に、店主らしき初老の男性が気づいた。 「あー、お客さん。順番守ってくれんと困りますよ」 「ああ、すいません。客じゃなくて、話を聞きに来たんです」 「話?」店主の眉が釣り上がる。「そういうのは後にしてくんな。見りゃ分かるだろ? 大忙しなんだ。明日ならその話とやらを聞いてやる」 「取材とかじゃないんですよ」三國も引かない。スーツの胸ポケットから警察手帳を出して見せた。「ある事件についての捜査をしてましてね、それで――」
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