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「和洋菓子本舗にゃ監視カメラはなかったけどよ、近くのコンビニで被害者らしき男の姿が映っててな。誰かを探してるように店内を覗いてた」
「あー、あのコンビニ。何時ごろだったの?」
「監視カメラの時計は十二時三十分ごろだった。ま、分かったのはそれぐらいだけどよ」
「私が目撃したのは十三時だから、犯行時刻は三十分まで狭まったってわけね。コンビニからあそこまで五分かかるとしたらもっと絞れるわ。そのあたりの監視カメラって全部集めてあるの?」
「それで見つけたのがコンビニのだけなんだよ。雑居ビルばっかりで、外の映像を撮ってるのなんてなかったからな」
「何だか大変ね」
まるで他人事だ。いや、確かに他人事なのは間違いないが、事件の取材と言うよりは楽しんでいるようにも見える。呑気なものだ。
「で、他には?」
「そんだけだ。そんないっぺんに分かるわけねえだろ?」どうやら松樹の扱いに慣れてきたらしい三國がそう答えて、逆に質問した。「ここ、予約制なんだろ? 何でこんなに並んでるんだ?」
松樹がふふんと自慢げに鼻を鳴らす。
「予約したのを取りに来た人がほとんどなんだけど、稀にキャンセルが出るの。この時間だとそれを買いに来た人がメインのはずだわ」
「そこまでして食べたいものでしょうか」
つい出てしまった杉元の本音を聞いて、松樹は睨みつけるようにして振り返る。
「香ばしい衣の香りにほどよい甘さの餡。あんたもいちご大福が好きなら分かるんじゃないの? いい? ご主人の前でそんなこと絶対に言わないで。さもないとこの店であんたたちが被害者の殺人事件が起きるわよ? ご主人、気性荒いんだから」
「……ええ、一言も喋りません」
「ああ、喋らねえから任せた」
それから五分と経たないうちだった。暖簾の奥からレジを担当していたのとは別の和服を着た女性が現れたのだ。
「本日のご予約分は全て販売終了となりました! キャンセル分は五箱、お一人様一箱となります! 申し訳ございません! またのお越しをお待ちしております!」
そう叫ぶと、五人を残して他の客たちはため息まじりに帰っていった。
「よし、行くわよ」そう言われて暖簾を目指そうとした杉元のスーツを松樹が引っ張って止める。「こういうお店は裏口に行くの。お客さんだと思ったお店の人が気を悪くするでしょ」
「は、はあ」
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