フードジャーナリストのチカラ

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「いえいえ。連絡先が分かっただけでも助かります。後はこの中の男性に電話すればいいだけですので」 「奥さんが注文するケースもあるから、全員に電話しなさいよね」店主との挨拶を終えたらしい松樹がやってきて口を挟む。「電話注文だけだから、家族にさせてお父さんが会社を抜け出して取りに来てるって人もいるのよ。ハナさん、面倒かけてしまってすいません。ありがとうございました」  ハナが微笑む。 「いえいえ、松樹さんもまた来てください。その日はカミナリが落ちないって、みんな喜んでいるので」 「あはは。またお邪魔しに来ますね。お菓子、皆さんの分もおじちゃんに渡してあるので、どうぞつまんでください」 「ありがとうございます」  二人もハナに礼を述べて店を後にした。  行列がなくなりどことなく寂しくなった路地を抜け、公用車を停めたコインパーキングへと歩きながら、三國はメモにあった四人に電話をかけ始めた。  一件目の相手は男性だった。購入したのは電話口に出た本人であり、一箱は友人に、もう一箱は家族で消費したことが判明した。次の二件はいずれも応答がなく、最後の女性は自治会の集まりで全員に配ったことが分かり、これも対象から除外された。 「残りはどうするの? 住所調べて家に行くとか?」 「そうしたいとこだけどな、それにゃ色々手続きが必要なんだよ」 「情報開示請求、だっけ? ドラマでやってた。それってすぐできるの?」 「まあ、そうだな」そう答えて三國が杉元に目線を送る。「まずは署に帰って報告して、裁判所命令を取りつつ手続きしながら電話をかけるとするさ。ま、早くて明日だな」  すると、松樹のキャリーバッグを引く手が止まった。 「もしかして……私を厄介払いしようとか思ってないわよね? せっかく協力したのに」  これはまずいと杉元がフォローに入る。 「いえいえ。実際に時間がかかるものなのですよ。報告も大事ですし、それに松樹さんもお仕事があるのでしょう? 身元が判明しましたら、すぐにでも連絡いたしますので」  だが、当の松樹は不満そうに唇を尖らせていた。 「時間ならあるわよ。まだ次のアポは取ってないし、来週にちょっとしたイベントやるだけだから、それまではブログの投稿と記事の執筆だけだし。タブレットあるからどこでも仕事できるの」 「五時間も六時間も待つかも知れないのですよ? それでもよろしいのですか?」
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