フードジャーナリストのチカラ

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「途中経過ぐらいは教えてくれるんでしょ?」 「それは……そうですが」  いけない、押され気味だ。そう思った時にはもう遅かった。 「それに残り二人の身元探しで動き出すまでホントに五、六時間かかるようなら、あんたたち警察の力を疑うわ。電話番号だって色んなデータベースとか当たればいいだけだし、報告なんて遺留品から電話番号が分かりました程度でしょ? どう考えたってすぐ終わるじゃない。やっぱり厄介払いじゃないの?」鼻を鳴らしながら松樹が二人を交互に見やった。「このチャンス、絶対手放さないんだから」  そう告げて、松樹はすたすたと歩き出す。キャスターを転がしてその後をついていくキャリーバッグ。 「何してんのよ。早く行くわよ? 時間がもったいないでしょ」  どうやら松樹を遠ざける作戦は失敗に終わったらしい。車を停めた場所も知らずに意気揚々と歩きだした彼女を止めることができなかった二人は、言った通りにいったん荒川中央警察署へと戻ることになった。  後で連絡すると彼女を署の入口に置いた二人が二階の刑事課に戻る。そして窓から松樹の様子を伺った。 「どうすんだよ、あれ。とんだ拾いもんしちまったな」彼女は、署の玄関脇にキャリーバッグを置き、その上に腰掛けて、タブレットと手帳を開いて作業していた。「情報提供にゃ感謝するけどよ、まさかこんなことになるとはな」 「僕に引き合わせようとしたのは健次郎ですよ?」とは言うものの、どうすることもできないなと杉元は思っていた。「僕が懸念しているのは、あれでも彼女はジャーナリストだということです。下手なことでもしてブログやSNSに晒されでもしたらと思うと……今度は健次郎にまで迷惑をかけそうで怖いのです」 「まあな……だとして、どうすんだ? あれ」  三國が窓の近くにあったベンチに腰掛けてため息をつく。 「身元特定まで済ませたら、相手がその筋の構成員である可能性が高いということにして、捜査が他の課に移ったと言ってみてはどうでしょうか? そこまで分かれば満足でしょうし、どのみち、それほど大きな事件ではないので他に漏れることもないでしょうから」 「それもそうだな。んじゃ、ちゃっちゃとやっちまうか」  そうと決まれば仕事をこなすのみ。
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