プロローグ

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 そうして連れ立った二人は、日暮里駅に向かって歩き出した。 「このお礼は必ず。先日のスマホがおかしかったのを直してもらったのもまだしてないっスし」 「そんな大仰な。まあ、給料が出て余裕がある時に、ラーメンの一杯でもおごってもらえればいいのですよ。まだ入って半年ですし、お金も大変でしょうから」 「ホント、すいませんス。あ、そうだ。ラーメンと言えば、新宿にあるうちうちってラーメン屋知ってるっスか?」 「いえ。多分食べたことはないと思いますが」 「そこ、最近日暮里にも店を出したんスよ。超絶うまくって、納豆入ってるんスけど、全然しつこくなくてうまいんス。正方形のノリとネギがいい香りで……あー、ハラ減ってきた」 「福屋くんはラーメン大好きですからね」 「そうなんス。昼間限定で出前もしてくれるんで、最近じゃ毎日昼と夜に食っちまって」 「納豆は体にいいとは思いますが……それでも、三食バランス良く食べないと体を壊しますよ?」 「大丈夫っス。金ないんで、休日はもやしとキャベツでしのいでるんで」 「そういう話ではないのですが」  そんな他愛のない話をしながら交番に着いた杉元は、他の巡査たちに挨拶をしながら、すぐにパソコンのチェックを始めた。  やはりウィルス感染などではなく、ただの構成エラーだったことが分かり、必要なソフトウェアを改めてインストールし直し、本署からの通達書類が見られるように設定した。  確認のためにその書類を開く。それは一昨日あたりから起きている連続通り魔事件についての連絡だった。事件の概要についての説明と交番前の掲示板へ貼りだすチラシが含まれており、印刷とコピー、そして掲示まで手伝う。  少し遠回りになってしまったことと、一刻も早く帰宅していちご大福を味わいたかった杉元は、福屋たちと挨拶を交わして交番を後にすると、京成線に乗って自宅に向かった。  一駅目の新三河島で降りると、通りから少し入ったところにある自宅へと戻り、誰も待っていないリビングのテーブルに座って、ずっと手にしていた紙袋を開く。 「お待たせしました」  杉元はいちご大福にそう声をかけると、うっとりとした目で眺めながら二十分を過ごし、そしてゆっくり、一口一口を味わうようにして――食べた。
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