フードジャーナリストのチカラ

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 まずは残り二件の電話番号について情報開示を依頼するため裁判所命令を取りつつ、犯罪者データベースを当たる。その最中にも定期的に電話をかけていると、そのうちの一人と話すことができた。相手は若い男で、日本へ旅行に来ている海外の友人から、どうしても喰屋の最中が食べたいと言われ、グループ全員に行き渡るように二箱を購入したと言う。  こうしてリストに一人残ったのは、西谷高次という男性だった。前科はないようで、警視庁と公安調査庁のデータベースには登録されておらず、名前でネット検索をしてみたら今度は検索結果が多すぎて調査を断念した。  結局は通信会社の情報開示待ちということになり、まだ他にもやることがあるという三國を置いて、先に帰ることにした杉元は一足先に署を出た。  時刻は夜の七時。既に街は夜の帳が下りて、前を走る明治通りにはライトを点けた車が行き交っている。二月の冷たい風が吹く署の外に出た杉元は、立ち番をしている警官に挨拶すると、彼から入口のほうを指さされて思い出してしまった。 「……まずいですね」  寒かったのだろう。コートを羽織りその上にダウンジャケットをかけたまま地べたへと座っている。キャリーバッグへもたれかかるようにして寝ているのは間違いなく松樹だった。 「ま……松樹さん。起きてください」 「ん……?」  目をこすりながら起きたその顔はどこかあどけなかった。カーディガンの袖で口元を拭いながら、杉元をぼんやりと見上げる。 「寝ちゃったんだ……今、何時?」 「すいません。もう七時になってしまいました」 「七時!? ずいぶん遅いじゃないの。ふわーあ……寒っ!」恨めしそうに杉元を睨みながら、松樹はゆっくりと立ち上がって伸びをした。「で、どうなったの? 身元は分かった?」 「一人に絞り込むところまでいきましたが、うちのデータベースにはなかったので、結局のところ問い合わせの手続きをすることになりました。ですが、登録内容が見つからないということで時間がかかっておりまして……結局、明日ということになったのです。それで今日は帰ることに」 「そうだったの? んじゃ、私も帰る。明日も、朝に連絡入れるから。逃げないでよね?」  ぼんやりしながらのダメ押しに、杉元はくすりと笑った。
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