フードジャーナリストのチカラ

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「僕たちは公務員ですので、逃げも隠れもできません。ところで……松樹さんはどちらにお帰りなのですか? 確か家がないというお話だったような」 「どこって……どっかよ。私も知らない。でも今日はきちんと寝たいし、ネカフェにしようかな」  疲れの取れる場所がネットカフェなら、ビジネスホテルは宮殿ぐらいの認識なのだろう。センスは置いといたとしても、身なりはごく普通だし、おかしな所持品も癖もない。他人に土産物を買っていくぐらいだから赤貧ということでもなさそうだ。つまり、本当にそういうポリシーで行動しているということになる。 「ここらへんだと日暮里に何軒かあったと思います。僕は車で来ていますので、日暮里駅までお送りしましょうか?」  連絡もせずに待たせてしまった詫びのつもりだったが、松樹の捉え方は違ったようだ。 「……言っとくけど、彼氏いるから」 「は?」 「乗せてくれるのはありがたいけど、あんたとは付き合う気もないってこと。それでも乗せてくれるの?」  どうやら気があると思われていたらしい。 「大丈夫ですよ。協力していただいたお返しですので。それに僕も松樹さんには興味がないので問題ありません」 「何よ、それ。ホント失礼ね」安心させるつもりが裏目に出てしまったようだ。これがリアルな女性というものなのだろう。やはりいちご大福とは違う。「まあいいわ。それじゃお願い。もう眠くて歩くのもだるいし」 「かしこまりました」  杉元は苦笑いしながら彼女のキャリーバッグを引っ張って駐車場に向かうと、松樹を助手席に乗せ、荷物を後部座席に入れて車を出した。荒川警察署を出て明治通りを西日暮里のほうへと走らせ、尾竹橋通りを左に曲がって東日暮里へと向かう。  沈黙はあまり好きではないが、かと言ってお気に入りの曲をかけてお喋りするほどの仲ではない。何となく、杉元は口を開いた。 「いつもどこで寝泊まりしているのですか?」 「そんなにおかしい?」 「……ということは、よく聞かれるということですね?」  松樹がふうとため息をつく。
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