アリバイ

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アリバイ

 西谷高次なる男の詳細な情報が分かったのは、翌朝、杉元が出勤してすぐの頃だった。  時間がかかったことには理由があった。  彼が契約していた番号は半年前に解約されており、今回、喰屋の注文で使った電話番号は彼と違う名義で契約されていたのだ。これまでにも何回か回線の契約と解約を繰り返しており、通信会社はデータの誤登録を疑って最初の契約締結まで遡り、ミスがなかったかを精査していたため一日かかってしまったと、担当者は弁解していた。  結局判明したのは、西谷が他人に成りすまして契約した事実だけだった。  二度ほど行われた住所変更の際に確認した情報から、西谷高次は東京は中野に在住している四十五歳の自営業者ということが判明した。  杉元と三國が請求書の送付先である中野駅近くの住所へ向かう。  そこにあったのは、割と高級感のある白塗りのマンションだった。駐車場に車を停めて二階の二〇一号室の前に立ち、部屋の様子を伺う。物音は聞こえてこず、電気メーターの円盤は非常にゆっくりと回っていた。  三國がインターフォンを二度ほど押したが反応はない。ドアノブを回してみたものの、鍵がかかっていて開くことはできなかった。隣の住人に話を聞こうとしたが、留守だったらしく、同じようにインターフォンの応答はなかった。  十分ほどして、あらかじめ呼んでおいた管理会社の社員がやってきて話を聞かせてもらった。被害者の写真を見せると、一度だけ騒音苦情の件で会ったことがあるため、西谷本人に間違いないと裏が取れた。その際に聞いた話だと、職業はラーメン屋の店員をしており、過去には店も持っていたと自慢されたという。見た目はチンピラのような雰囲気だったが、口調や物腰は普通に見えたらしい。 「……今どきのラーメン屋ってのは、こんなに儲かってるもんなのか?」  管理会社の社員に部屋の鍵を開けてもらい中に踏み入った二人は、十二畳ぐらいの広さを持つ部屋の調度品に圧倒されていた。  フローリングの床には高価そうな絨毯が敷かれており、壁には八十インチはありそうな液晶テレビがかかっている。それを見るためのテーブルは一人用にしては広く、同じように一人では持て余しそうな革張りのソファーがL字に置かれていた。
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