アリバイ

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「その副業が元で殺されたってことか。よし、それらしいのを探すぞ」  長くなりそうだったため、鍵を借り受けて管理会社の社員を帰すと、二人は部屋の中を徹底的に捜索した。  カラーボックスの裏に鞄の中、テーブルの上に置いてあった封筒の類。他にも意図的に隠したのか分からないクリアファイルの書類などから、西谷高次という人間の輪郭がぼんやりと見えてきた。  この男は三十代で一念発起しラーメン屋を興したが、二年ほどで倒産させ、多額の借金を背負って自己破産を受けたらしい。だが、それで諦めるような夢ではなかったらしく、今度はしっかりとラーメンを学ぼうと思ったのか、数多くの有名ラーメン店で修行を始めたようだった。どのような約束をしていたのかは分からず、それが契約に基づくものか自主的なものかは不明だが、それぞれの店で、短い時は二ヶ月程度、長くても半年という期間で店をころころと変えていた。 「ああ、これですね」そんな中、事件に繋がるだろう封筒が出てきたのだ。「約束のものを渡してから半年になる。二件ほど売れたらしいが分け前がない。早く振り込むか持ってこないと面倒なことになる……人のことは言えませんが、ひどく汚い字ですね」 「ミミズがのたうったような――ってより震えてる感じだな。老人かアル中か。とにかくこいつだ。消印を見ると一ヶ月前だし、まだこの住所にいるだろ」 「どうにも間抜けな脅迫者ですね。連絡先を書いておくとは……」 「素人なんだろ。よし、行ってみるか」  二人は西谷のマンションを後にすると、駐車場に止めておいた公用車に乗り込み、麻布へと向かった。下道を四十分ほどかけて着いたその住所は、古い住宅が建ち並ぶ一角で、その中に手紙の差出人である有川の住むアパートがあった。  木造二階建てでトタン屋根のその家は台風が来たら吹き飛びそうなほどに老朽化しており、あちこちに継ぎ接ぎの補強がされた昭和の遺物を思わせる。その一階、錆びた鉄製の階段脇に五十CCのバイクが停まっていた。使い倒されており、メーターが割れ、シートは中のスポンジが出そうになっているのをガムテープで何とか防いでいるような代物だ。  他に出入口がないことを確認し、二人は足音を立てないようその錆びた鉄製の階段を昇り、二つあるうち奥の部屋の前に立つ。  インターフォンがなかったため、三國はその安そうなベニヤでできたドアをノックした。
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