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「有川さん? いますか?」
すると、中から床をきしませるような音がして、ゆっくりとドアが開く。
「誰だよ」
その人物を見て、二人は息を飲んだ。現れたのは、まるで浮浪者のような女だったからだ。
年齢は松樹と同じ二十代半ばぐらいだろう。しかし、手入れをしていない伸ばしっぱなしの黒い髪に、落ち窪んた目、薄汚れたスウェット上下というスタイルは、堕ちきった病人のような雰囲気を醸し出していた。
その細く痩せた体の脇から、部屋の様子が伺える。そこはまさにゴミ屋敷だった。
真ん中の小さなスペースが寝床なのだろう。そこを盆地として、四畳半の部屋は壁へ向かうにつれて空き缶や紙パック、洋服、ペットボトル、毛布、ダンボールといったゴミが、窓がわずかに見える高さにまで積み上がっていたのだ。
そんな薄暗い部屋の中で光を放っているのはキッチンだけだった。と言っても小さなコンロが二つついた簡素なものだが、手入れはしているらしく、玄関から射し込んだ光をステンレスが反射させていた。まな板と包丁が置かれているのは、こんな部屋の主でも料理をしていることを物語っている。
「えー……あんたが有川さんか?」
三國の問いかけに、有川は頷かない。
「株とか先物取引とかならやんねえから帰れよ。金がねえの、見て分かんだろ?」
その声は酒で焼けたようなハスキーボイスだ。
「いや、セールスじゃなくて警察の者だ。二、三、聞かせてもらいたいことがあって来たんだが」
「……警察?」
有川の淀んだ目に警戒の色が浮かぶ。整えられていない薄い眉を寄せて、三國をじっと見つめた。
「近くで誰か死んだのか? ま、どっちにしろここ一週間は外出てねえし、何も言うことはねえよ」
そう言って有川がドアを閉めようとするのを、杉元が反対側からドアノブを掴んで阻止する。痩せ細った体では力も出せないのだろう、普通に握る力で事足りた。
有川が二人をじろりと睨む。
「下に停めてあったバイクはあんたのか?」
「あー、そうだよ。駐車違反か? ここは私有地だ。逮捕できねえだろ」
「いや、聞いただけだ」
「じゃあ帰れよ」だが、ドアは閉まらない。三國は有川の目を見つめて、言った。「西谷が死んだ。心当たり、あるんだろ?」
口調を変えてすごむ三國に、有川は少し唸るような声を出して生唾を飲む。
「お前ら、ホントに警察か? 警察手帳、見せろよ。持ってんだろ?」
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