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請われて、三國がスーツの胸ポケットから警察手帳を出して開き、写真と名前の部分を有川に向ける。
「安っぽい手帳だな。みくに、か。分かりづれー名前。ま、信じといてやるよ」
「それで、西谷高次を知ってるのか?」
「ああ。あいつ死んだんだな。事故か? 病気にゃ見えなかったけどよ」
「いや、殺された」
杉元は有川の目、その動きを追った。
「そっか」だが、別段変わるところはなく、彼女はごく普通に答えた。「まあ、あのおっさん、恨み買ってそうだしな。で、あたしが殺したって言いたいんだろ?」
「そうは言ってない。今は関係者に事情を聞いてるところだ。一昨日の正午から午後二時までの間、どこにいたか教えてくれ」
すると、有川は答える代わりに部屋へ戻ると、ゴミの山から一枚の紙を持ってきて三國に見せた。
それは「大感謝祭」と大きな文字が前面に出たラーメン屋のチラシで、食をそそりそうな具材がたっぷりと乗ったラーメンの写真が三点ほど写ったチラシだった。
「一昨日の昼はここで食ってたからよ。店に聞きゃ分かるぜ」
「家から出てないってのは嘘だったってことだな」
「おめー、馬鹿か? メシ食わなくてどうすんだよ。他にどこにも行ってねえって意味ぐらい気づけよ。足りねえ刑事だな」
そんな暴言にも三國は眉一つ動かすことなく話を続ける。
「店員に知り合いでもいるのか?」
「じゃなかったら言わねえだろ? やっぱ馬鹿だな」
「話でもしたか? 相手の名前は?」
「並んでる時に話しかけただけだ。ここに行けば分かるっつてんだろーが」
と、有川から押し付けられたチラシを三國が受け取る。
「発水……池袋だな。分かった。これはもらっておこう」三國の言葉を聞いた有川が、二人を睨みつけながらドアを閉めようとするのを、今度は三國が靴の先で止めた。「いや、まだだ。次はあんたについて教えてくれ。仕事は何してる?」
「いい加減にしろよ。質問にゃ答えただろ」
「あんたが答えりゃすぐに済む。仕事は何してるんだ?」
凄む三國の目を見て、有川は舌打ちした。
「見て分かんだろ。してねえよ。してるように見えるっつーなら、あんたは馬鹿刑事だ」
「無職ってことだな? なら、どうやって生活してるんだ?」
「息吸って吐いてんだよ。生きてんの、見りゃ分かんだろ? ま、お前らの安月給の元になる税金は払ってねえけどな。ははは」
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