アリバイ

5/32
前へ
/212ページ
次へ
 請われて、三國がスーツの胸ポケットから警察手帳を出して開き、写真と名前の部分を有川に向ける。 「安っぽい手帳だな。みくに、か。分かりづれー名前。ま、信じといてやるよ」 「それで、西谷高次を知ってるのか?」 「ああ。あいつ死んだんだな。事故か? 病気にゃ見えなかったけどよ」 「いや、殺された」  杉元は有川の目、その動きを追った。 「そっか」だが、別段変わるところはなく、彼女はごく普通に答えた。「まあ、あのおっさん、恨み買ってそうだしな。で、あたしが殺したって言いたいんだろ?」 「そうは言ってない。今は関係者に事情を聞いてるところだ。一昨日の正午から午後二時までの間、どこにいたか教えてくれ」  すると、有川は答える代わりに部屋へ戻ると、ゴミの山から一枚の紙を持ってきて三國に見せた。  それは「大感謝祭」と大きな文字が前面に出たラーメン屋のチラシで、食をそそりそうな具材がたっぷりと乗ったラーメンの写真が三点ほど写ったチラシだった。 「一昨日の昼はここで食ってたからよ。店に聞きゃ分かるぜ」 「家から出てないってのは嘘だったってことだな」 「おめー、馬鹿か? メシ食わなくてどうすんだよ。他にどこにも行ってねえって意味ぐらい気づけよ。足りねえ刑事だな」  そんな暴言にも三國は眉一つ動かすことなく話を続ける。 「店員に知り合いでもいるのか?」 「じゃなかったら言わねえだろ? やっぱ馬鹿だな」 「話でもしたか? 相手の名前は?」 「並んでる時に話しかけただけだ。ここに行けば分かるっつてんだろーが」  と、有川から押し付けられたチラシを三國が受け取る。 「発水……池袋だな。分かった。これはもらっておこう」三國の言葉を聞いた有川が、二人を睨みつけながらドアを閉めようとするのを、今度は三國が靴の先で止めた。「いや、まだだ。次はあんたについて教えてくれ。仕事は何してる?」 「いい加減にしろよ。質問にゃ答えただろ」 「あんたが答えりゃすぐに済む。仕事は何してるんだ?」  凄む三國の目を見て、有川は舌打ちした。 「見て分かんだろ。してねえよ。してるように見えるっつーなら、あんたは馬鹿刑事だ」 「無職ってことだな? なら、どうやって生活してるんだ?」 「息吸って吐いてんだよ。生きてんの、見りゃ分かんだろ? ま、お前らの安月給の元になる税金は払ってねえけどな。ははは」
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加