アリバイ

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 繰り返す挑発的な態度には、何か理由がある。杉元はそう思っていた。 「それじゃ質問を変える。あんたと西谷はどういう関係なんだ? あいつと寝てたのか」  すると、有川の眉がぴくりと吊り上がった。 「んなわけねえだろ! あんなおっさんとあたしが釣り合うように見えんのか!? 前に同じラーメン屋で働いてたってだけだ。それ以上でも以下でもねえよ。馬鹿野郎」 「恨みを買ってるって言ってたな。彼氏でもないなら言えるだろ?」 「……あちこちで少し働いちゃ辞めてたからだよ。愛想も腕もいいからみんな重宝しだすけどよ、すぐに辞めちまう。それぐらいしかねえだろ? それぐらいも分かんねえのかよ」 「恨みを買ってそうな店の名前は?」 「……バイクヤとむぅラーメンでトラブったってのは聞いたことある。あたしが知ってんのはそんぐらいだ。おっさんの勤め先全部当たってみろよ」 「で、あんたは同じラーメン屋で働いてた以外の関係はないと。そうだな?」 「そうだよ」 「これでもか?」  三國の目配せを受けて、杉元はスーツの胸ポケットに入れていた手紙を取り出して有川へと見せた。  これほど分かりやすい動揺があっただろうか。その手紙を見た有川は、目を見開き口を開け、びくりと体を震わせたのだ。 「この手紙が入っていた封筒には、有川さんのお名前とここの住所が書かれておりました。手紙には西谷さんに対し金銭を要求する内容が書かれており、それが遅れていることでトラブルにもなっていると書かれております」  手紙を取ろうと有川が手を伸ばしてきたのを見て、杉元はさっと胸ポケットにしまった。 「さて、この件についてご説明いただけますでしょうか」  有川の目は泳いでいた。三國と杉元の顔を交互に見やる。逃げ場はない。すると、彼女は少し俯くと、諦めたように吐息をついた。 「あいつに金貸してたんだよ。なけなしのを」 「それは言葉が足りないか、違うのではないでしょうか。手紙の文面では二件ほど売れたので、その分配金を受領していないと主張していたはずですが?」 「だから! 一緒に売ってたもんがあったんだよ!」  徐々に有川の声が大きくなっていく。 「何をお売りになっていたのですか?」 「何でもいいだろ? あんたらにゃ関係ねーんだよ。言う必要もねえ。違うか?」
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