アリバイ

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「今は立派な刑事ですよ。相手の挑発にも乗らず、仕事を淡々とこなす……あの女性も昔、何かあったのでしょう。部屋のゴミもほとんどがアルコール類とつまみのようなものばかりでした。手が震えていたように見えたのは、アルコール中毒なのか、食べてなくて力が出ないのか」 「声は威勢良かったからクスリじゃねえと思うけどよ……足も震えちまってて、事件でもどのレベルで関わってんのか分からねえな」 「そうですね。取り急ぎアリバイ確認に向かいましょうか――うん?」  杉元はスーツの違和感に気づいてポケットに手を突っ込んだ。取り出したスマホは着信を伝えて震えていた。 「どうした? 何で出ない?」 「……あの人ですよ」三國が苦笑いする。杉元はこほんと空咳をしてから、応答した。「あの、どうも、こんにち――」  挨拶を述べようとした杉元の声を遮って、電話の向こうから松樹の叫ぶような怒号が耳に飛び込んできた。あまりの声量に、漏れ聞こえた三國も目を丸くしている。 「い、いえ、別に約束を破ったわけではなくてですね……いえ、そうではなく、急ぐ事情があったのです。え? 過去形? それは確かに終わりましたが……次は池袋です。え? それは、ちょっと……いえ、それも困ります。ええ? そういうつもりでは決して――はあ、それではお迎えに上がりますので……」  通話を切った杉元は肩を落とした。 「やっぱり来るのか。あの女」 「調査に同行させないと、ブログで僕たちの実名を出して非難してやると脅されまして……結局、ラーメン屋の聞き込みに連れて行くことになりました」 「……大失敗だったな」 「ええ。健次郎のミスです。ですが、断りきれなかった僕のミスでもあります」 「しゃあないか。次はラーメン屋だし、また何か役に立つかもな」  そう言って、三國は公用車のエンジンをかけて車を発進させた。六本木ヒルズの脇を通り、青山から四ツ谷に抜けて明治通りを北上する。学習院大学を横目に目白をかすって池袋には四十分ほどをかけて到着した。  いつもどおりコインパーキングを探し車を停めると、まず池袋駅の東口へと向かった。そこで二人が目にしたのは、交差点脇の歩道、その端に置いた大きなキャリーバッグに座って足を組みながら、こちらを睨みつけている松樹だった。
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