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その行列は、コンクリート打ちっぱなしの無機質な灰色をしているビルの周りを囲むように並んでいた。長さ二十メートル程度の壁に沿って歩いていくと、二度ほど角を回ったところで、ようやく暖簾のかかった店の入口らしいドアが見えてくる。
それだけならただの人気店で終わる話だろう。しかし、杉元を驚かせていたのは、並んでいる行列だった。客はただ待っているだけではなかったのだ。
ある人は本を読んだり、ある人はお茶を片手にお喋りに興じている。そこまではいい。だが、少し目を向けただけでも――小さいテーブルを置いてカードゲームで遊んでいる学生たち、一心不乱に縄跳びをしている中年男性、ジャグリングの練習をしている主婦などがいたからだ。
「学芸会ってか、一発芸大会の会場みたいだな」
「お店側の配慮なの。回転率がそんなに良くないから、待ち時間も楽しめるようにって」
「それにしちゃ悪ノリしてるような気がするが……」
三國がぐるりと行列を眺める。
壁には長テーブルが置かれており、お茶のポットとカップにおしぼり、雑誌や漫画がずらり並べられていて、割と大きな液晶テレビがワイドショーを流している。
その他はおもちゃがほとんどだった。けん玉やヨーヨーなど子供ができるものもあれば、マグネット将棋やトランプのように時間がかかるもの、後片付けが大変そうな積み木にジェンガまで置かれている。
何より驚いたのは、どう見ても他人だと思われる前後の客同士が、それらを使って楽しそうに笑っている姿だった。
「それにしても不気味ですね」
杉元が窓を指差す。マジックミラーになっているのか店内は見えず、反射して外の景色と待っている客が映っていた。気味が悪いのは、窓の位置がやや高めになっているため、遠目に見ると男性客の生首がずらりと並んでいるように見えるからだ。
「常連の間じゃ、行列待ちをナマクビ中って言うのよ」
「うまいこと言うもんだな」
杉元と三國も生首として顔が映っていたが、背の小さい松樹は頭のてっぺんすら見えていなかった。
そんな二人の生首が並ぶ隣に、矢印が見えた。
「あー、あんちゃんら。並ぶんなら、この矢印のほうにぐーっと行った最後だからな?」
話しかけてきたのは、二人の近くで並んでいた、スーツ姿がいかにも外回りっぽい中年の男性だった。いたるところにネオンがきらめく矢印の看板をぱんぱんと叩きながら笑っている。
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