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「僕、前に有川さんのお店でバイトしてたことがあったんです。お店が潰れて働くところがなくなった時、同じ魚介系のここを紹介してもらったんです」
そう話してくれた彼は来年で二十歳になるという少年だった。松樹より少し高いぐらいの身長と童顔は、中学生と名乗っても不思議ではないほど若く見えた。
「ちょっと待って。そんな話聞いてないわよ?」
松樹が杉元を振り返る。
「特に説明するほどのものではないと思ってましたので……」
「大事に決まってるじゃないの」松樹は再度その店員に向き直った。「あなたが勤めてたお店って、もしかして『サカナのチカラ』じゃない? 有川優さんよね? そう言えば、そこであなたを見た気がする。確か、友永さんよね? 私、ブロガーで話を聞かせてもらった松樹です。覚えてますか?」
そう言われて友永も気づいたらしく、その節はどうもと頭を下げる。
「松樹さんはご存知でしょうけど、隣に同じ魚介系のお店ができて、値段も少し低めに設定されてお客さんを奪われちゃったんです。半年ぐらいしたら、もう食材も買えなくなっちゃって」
当時のことを思い出したのか、松樹は悲しそうな目で頷いた。
「ええ、知ってますよ。有川さんとは同い年で、同じように趣味から仕事を始めたのを聞いて……勝手に応援のつもりで何回もお邪魔させてもらってたんです。そしたら、突然閉店のお知らせが貼ってあって……」
二人のやりとりを聞いていた小太りのオーナーが思い出したように手を打った。
「あー、あそこの子か。うちと同じ魚介で頑張ってる若い子だったよね? 何度か経営のことについて聞かれたっけ。その縁で友永くんを雇ったんだよ。腕がいいから、あの子も一緒にうちでどうかって聞いたんだ。でも、またお店を出したいからって断られてね。全部自分の力で借金を返したいからって援助も断られたよ」
「そうだったんですか。でも……有川さんなら言いそうですね」
そう頷く松樹の言葉に、杉元は驚きを隠せなかった。
三國を嘲り、罵っていたあの浮浪者みたいな女性とはまるで別人だったからだ。あの態度は、二度と夢を掴めなくなった絶望がそうさせたのだろうか。
「なるほど、知り合いなのは分かった」三國が話を進める。「それじゃ……友永さん。もう少し細かいことを教えてくれないか。あなたが有川さんを見たのは何時ごろのことだったか。その時の服装とか、覚えてることは全部」
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