アリバイ

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「時間ですか? それなら分かると思います」  友永はジーンズのポケットからスマホを出して、画面を三國に見せる。それはメッセンジャーアプリのもので、有川さんと書かれた相手から「食べに来たよ。頑張ってるかい」と書かれたメッセージが、一昨日の十二時五分に受信されていた。 「有川さんがここに着いた時に連絡をくれたんです。それで、ちょっと抜けさせてもらって、挨拶だけしました。ダウンジャケットにジーンズだったと思います」 「有川さんは実際にラーメンを食べた?」 「はい。店内に入ったのを見ましたし、僕がラーメンを出したんです。その時も話しましたし、帰り際にまたくれたんですよ」  友永が画面をスクロールさせる。そこにはラーメンの味と、友永を励ます言葉が短く綴られていた。受信した時刻は十三時二十分だった。  三國が杉元を振り返る。 「一時間ちょっとか。バイクなら抜けて帰ってきても間に合うな。しかし、見てるんじゃ……アリバイ成立か」  何か穴はないのかという視線を受けて杉元も考えてみたが、はっきりと目撃しているのであれば、証言を覆すことは無理だろうとため息をついた。 「あの……有川さんが何をしたか知りませんが、警察に捕まるようなことは絶対にしてないです。本当にいい人なんです。僕の給料が未払いだからって、何とかするからって言ってくれて……僕は大丈夫だからって言ったんですけど、それでも絶対払うから待っててくれって……」  友永が有川に絶大なる信頼を寄せているのは、その言葉と懇願するような目で分かった。 「前の日に電話をかけてきてくれたんです。僕の顔を見に行くからって。すごい辛そうな声で……実際、うちのミニラーメンですら残しちゃったんです。食いきれなくてごめんな、って。有川さん、今、どこに住んでるんですか? 教えてくれなかったんです。心配いらねえって言われて……」 「それは悪いが、個人情報なんで教えられないんだ」 「そうですか……でも、元気なんですよね?」 「まあ、普通に話せたからな」 「なら良かった……」  もしかしたら、この友永のように有川を尊敬し、崇拝している誰かが共犯者なのではないかと杉元は考えだした。もう少し有川の身辺について調べてみるべきだろう。そう進言しようとした時、松樹はうんと頷きながら友永に向き直った。
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