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「ねえ、教えて。前に来た時と変わってなかったら、行列の注文取りは三十分に一回よね? 最後尾から聞いて回るのも同じ?」
「え? ええ、よくご存知ですね。長くて一時間近く待ってもらうことになるので、列のチェックも兼ねて交代で回ってるんです」
「有川さんがここに来た時と帰り際に会ってるのは分かったけど、列に並んでる途中は顔を見ただけなのよね? それって、注文取り中に見たってこと? 喋ってないのよね?」
「それはそうですけど……」
松樹の言いたいことを理解したらしい友永が、困ったように眉を潜めて頷いた。
「確かに有川さんだった?」
「はい。見間違えはしてません。一緒に働いてましたし、窓ガラスに映ってた有川さんの顔を見てますから」
「それって、もうすぐ入店ってあたりよね?」
「ええ、そうだったと思いますけど……」
友永は困惑したようにオーナーを振り返った。彼は空咳を一つして口を開く。
「友永くんから食べに来てると聞いて、私もちらっと店を覗いたんだよ。確かにうちのラーメンを食べてたよ。あの子が何かしたのなら、それは間違いか、よっぽどの事情があったはずだ。もし疑ってるなら、もう一度きちんと調べてほしい。松樹さんからもそう頼んでもらえないかな」
さすがに記事を書かせてもらったオーナーの手前、松樹はそれ以上の追及ができないと判断したらしく、はいと返事したまま押し黙ってしまった。
杉元もこれ以上手がかりになることは聞けそうにないと三國に目線を送り、手間を取らせたことの詫びを告げて、三人は事務所を去った。
コインパーキングへと戻る道すがら、松樹が思い出したように口を開いた。
「ねえ。有川さんと話したいんだけど」
また妙なことを言い出したと、杉元は笑顔を崩さずに糸目を細めた。
「どうしてでしょうか?」
「どうしてって、あんた……面識があるからに決まってるでしょ。有川さんって、元々――ほら、何て言うの? 昔はかなりやんちゃしてた人で、特に警察にはひどい目に遭わされて嫌な印象しかないらしいのよ」
「だからか……」三國が呟く。
「だとしても、何を話すのですか?」杉元が聞いた。
「もしかしたら、アリバイを崩せるかも知れないのよ」
松樹は真面目な顔でそう答える。杉元と三國が顔を見合わせた。
「先程の話で重要な情報が得られたのですか?」
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