アリバイ

15/32
前へ
/212ページ
次へ
「それもあるけど……有川さんが心配なのよ。さっきも言ったけど、叶えた夢の中で苦労してた人で、勝手に共感しててね。お店潰れてからけっこう探したんだけど見つからなくて」  だからいつものように得意げな顔をしなかったのだろう。 「それで、どうやってアリバイを崩すというのですか?」 「そんなこと言ったら、また置いてくでしょ。ま、そうなったらそうなったでブログに書くだけだけど」 「そんなことはいたしません。参考までにお聞きしたかっただけなのですが」 「イヤ。で、どうするの? 私を連れてくの? 連れてかないの?」  松樹と杉元の視線がかち合う。ブログに書くと脅しておいて連れていくもいかないもないだろう。  そんな二人を見て、三國が困ったように割って入る。 「分かった分かった。連れてくから好きにやってくれよ。ただ、一通り話が終わったら口出しさせてもらうぞ?」 「構わないわよ。それじゃ急ぎましょ」  コインパーキングに戻り公用車に乗り込んだ三人は、また四十分かけて麻布へと戻り、木造二階建ての前に車を停めて、きしむ鉄製の階段を昇っていく。  まだいるだろうという予想を裏切らず、ノックしたドアの向こうから誰だという声とともに足音が聞こえ、ドアノブが回った。 「ったく――ん?」  チェーンかかった隙間から目を覗かせた有川が、松樹の姿を見て声を上げる。 「あんたは……確か松樹だっけ。どうしてここが? ちょっと待ってくれ」  いったんドアを閉めてチェーンを外し、ドアノブを握ってふらふらと開けながら出てくる有川。最初は驚きの中に和らいだ表情があったものの、それは杉元と三國の姿を見つけてすぐに元のしかめっ面へと戻った。 「……何の用だよ」  有川が誰に向けるでもなくそう呟くと、松樹は頭を深く下げて笑顔を浮かべた。 「ご無沙汰してます。この人たちから有川さんのことを聞いて、居ても立ってもいられなくて来ちゃいました。お元気――じゃなさそうですね」 「見ての通りだよ。で、あんたは何しに来たんだ? そいつら連れて」 「あー、この人たちは気にしないでください。いないものと思っていいですよ。そうです、空気とかそんなんで」  すると、有川がくすりと笑った。 「たまたま取材で『発水』に行ったんですよ。そしたら友永さんに会いまして。すごく心配してましたよ。体は大丈夫なのかって」 「ナガか……あいつにゃ心配させて悪かったって思ってるよ」
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加