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有川の表情が沈む。
「その友永さんが言ってたんです。この人たちが来て、日暮里の殺人事件で有川さんを疑ってるって。そしたら友永さん……有川さんはそんなことをする人じゃない、何かの間違いだって。すんごい言ってました。私もそう思います」
有川は黙ったまま聞いていた。
「以前、私がお店で取材させてもらった時の、煮干しとさんまを使った、濃厚だけどヘルシーなラーメンの開発の経緯と記事にしたら、反響があったの覚えてますか?」
「ああ。コメントが千だか行ったとか言ってたな。……あれは確かに嬉しかったよ。客足も伸びたし、ブログを見て食べに来てくれたって客もいた。感謝してる」
「あれには続きがあるんです。閉店になった後、あの記事のコメントがさらに増えたんです。見てみたら……『サカナのチカラ』のラーメンが食べたい、今はどこでやってるのかって書かれてました。メールでもたくさん来たんですよ」松樹はリュックからタブレットを取り出して、メールの画面を見せた。「ほら、こんなにたくさん……」
受信トレイにはサカナのチカラ用というフォルダが作られており、そこには二十通のメールが保存されていた。
タブレットを受け取った有川は震える手でタップしながら、一つ一つを丹念に呼んでいく。ブログ記事にあったラーメン屋を探してくれませんか。あの店主さんはどこへ行ったのか教えてください。あの味が忘れられません、ぜひとも探してください。
メールを読み終えタブレットを松樹に返した有川の目には、うっすらと涙が溜まっていた。
「知らなかった……こんなに、みんな……」
「私もこの人たちと同じでした。正直なとこ……背脂こってり系はお腹壊すことが多くて、濃厚魚介系が好きだったんですよ。特に有川さんのは色んな具が楽しめたし、チャレンジで色んなお魚使ってましたよね? あれも面白くて」
有川は指で涙を拭いながら、頷いた。
「確かに、あんたは取材じゃなくても来てくれてたよな。何回も」
「二十回ぐらいは通ってましたよ。って言うか、また通いたいです」松樹は有川の目を見ながら続けた。「また食べたいって思ってるんです。できればずっと……でも、この人たちが犯人だ何だってわめいてたら、お店なんて開けないじゃないですか」
「それは……」
「だから、アリバイをきちっとして容疑を晴らして欲しくて、同席させてもらったんです」
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