アリバイ

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「考えてみて。東京にあるお店と同じ味のラーメン屋を地方で開いたら、どんだけ人が来ると思う? 今時は開業パックとかもあってね、誰でもラーメン屋が開ける時代なの。二十三歳の女の子でもね」松樹がちらりと有川を見やる。「レシピを買って、安い開業パックでお店を開いて当たったらそのまま続行。二号店、三号店を出して大儲け。ダメだったら他の地方に行って再チャレンジ。儲かってる実績のあるレシピなんだから、当たるまでやればいいのよ」  杉元は驚きを通り越してため息をついた。 「分かってはいますが……それでも、露骨なビジネスですね」 「そうよ。いくら食べ物屋だからって儲けが出なかったら意味ないじゃない。趣味とか職人色が強い商売だから、そういう姿勢に批判的な人は多いけど……やってるほうも食べてくためなんだから」  松樹は有川に向き直った。「有川さんも手を染めちゃったんですね?」 「仕方なかったんだよ」頷く有川。「借金も残ってたし、まだ払ってない給料もあったし……何より、またラーメン屋をやりたかったんだ。それを知ってて……あいつが声をかけてきた」 「もしかして、有川さんが前のお店のレシピを盗んだの、知ってたんですか?」 「ああ。特別なオイスターソースをほんの少し使ってたので気づいたらしい。仕込みの仕方とか時間とかも……前の店にバラされたくなかったら手伝えって」  そうして有川はレシピを盗む共犯者となった。一ラーメン店のノウハウで三百万ぐらい。分け前は三分の二という言葉に心が動いてしまったのだ。  約束した有川は、過去の経験を活かして有名店へと修行を兼ねたバイトとして雇われることに成功した。その腕前からすぐに厨房を任され、信頼を得て仕入れの一部も担当し、ノウハウを吸収していく。そうして一つの開店レシピを完成させ西谷へと渡した。 「三人に声をかけてるって言ってた。だから待ったんだ。でも、一ヶ月しても二ヶ月してもあいつは金を振り込んでこなかった。そしたら、あいつ……あたしとの連絡を切りやがったんだ」  ああ、と杉元が頷く。 「そう言えば、彼は半年前に電話を解約しておりました。裏切られたのですね」 「そうだよ。騙されたって思ってヤケになった。酒ばっか飲んでアル中みたいになっちまって、店も辞めたんだ。体も動かなくなった」 「何もアクションは起こさなかったのですか?」
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