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「そっか。あん時にガラガラいってたのは、あんたの荷物だったのか。誰か来たと思って逃げちまったんだ」
キャリーバッグの音を聞いていたらしい。
「それで、有川さんはその西谷って人を殺した相手の顔を見たんですか?」
しかし、有川は首を横に振った。
「だが、話し合いを録音しようとして撮影した映像はあるらしい。だからこいつを持ってきてもらったんだ」
三國は布団の上に置かれていたデジカメを手に取って杉元に手渡した。見せてくれという視線を受けて、杉元はデジカメの電源を入れるとメニューを開き、一昨日の日付で撮影された動画を再生して見せる。
最初に映ったのは有川の顔だった。バッグか何かに入れたまま操作したのだろう。録音のために電源を入れたらしく、しばらくは真っ暗な映像が続いた。数分ほど飛ばしたあたりで、突如として野太い声の怒号が聞こえてくる。
「あいつか?」という有川の声とともに映像が揺れ、突如として画面に雑居ビルの並ぶ街の風景が映し出された。人通りのない路地を少し早歩きで移動し、角を曲がると、倒れている男の姿が映った。有川は驚く声を上げたものの、ゆっくりと男の元へ近寄っていく。横に向いている顔は確かに西谷のもので、グレーの安っぽいスーツも監察医務院で三國が写真に収めてきたものと同じだった。すると、映像が動いてアスファルトと西谷の姿を映しだす。どうやら地面に置いたらしい。有川の横顔がたまにフレームインする。脇に落ちていた鞄を漁っているようだった。
遠くからガラガラという物音が聞こえてきた時、有川の慌てるような声とともにデジカメが持ち上げられ、鞄を持つ手が映ったかと思うと、そのまま走りだしたように揺れ出す。髪のこんもりとしたアフロ風の男が有川の様子に気づいたらしく、ビルの影に隠れたのを最後にして、動画の再生が終わった。
「もしかして……西谷の持ち物を奪ったのか?」
三國の問いに、有川は目を逸らしながら頷いた。
「……あたしへの代金を持ってきてるかもって思ったんだ。でも……なかったよ。だから鞄はゴミ箱に捨てた。白い紙袋は近くに投げたと思う。財布は……二万だけもらって、どっかに捨てた」
これで西谷が身元不明になった理由が判明した。
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