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連続通り魔事件の捜査で大忙しなのだろう、刑事課は一人を残して出払っている。いたのは呑気に茶を飲んでいる横山だけで、今日も波打ったようによれているスーツがよく似合っていた。
松樹の細い腕の肘で二、三度小突かれて促されると、杉元はやむなく横山に事件のことと捜査資料について尋ねた。
ただの目撃者が刑事課に入り込んでいることなど我関せず、横山は目的も聞かないまま杉元に資料一式を渡してきたあたり、今日は仕事をする気分ではないらしい。
隅のベンチへと腰掛けた杉元は、部外者の松樹が覗きこもうとしてくるのを阻止しながら資料を読み始めた。
「絶対共通点があるはずなのよ」
たかが同じ店で食べただけという点を追及したいらしい。こうやってずるずると結論だけ先延ばしにして日常に流されていくのだろうか。いや、松樹に流されているだけかも知れない――そんなことを思いながら、情報を整理していく。
被害者のリストには、新たに西谷が追加されて合計四名となっていた。西谷は死亡し、二名は重軽傷、一名の女性は意識不明の重体に陥っているという。
職業と年齢はバラバラで、襲われた状況も場所も共通点は見いだせなかった。西谷は日暮里、意識不明の女性は谷中へ向かう路上で倒れているのを発見され、重症の男性は新三河島駅近くのコンビニ、軽傷の男性は日暮里駅のトイレで殴られている。
重症の男性はショックで短期記憶障害に陥っており、軽傷の男性のみが、相手は帽子を目深にかぶりサングラスをかけた男で、何をすればいい、どうして欲しいんだと意味不明な因縁をつけて背後から襲われたと証言していた。だが、後ろから首を掴まれ壁に押し付けられていたため、顔や背格好までは目撃していないという。
「これは……」
「見つかった?」
そんな記録を見ていく中、軽傷の男性が襲われる前に和洋菓子本舗で少し遅い昼食をとっていたと記されているのを発見した。
そのことを告げると、松樹は薄い胸を張ってニヤリと笑った。
「これで三人目。もう偶然じゃないでしょ? あのお店に何かあるのよ」
「確かに偶然ではなくなってきているかも知れませんが……あの店舗に何があるというのですか?」ただのこじつけだという考えが頭から離れない。「とりたてて高級なものは提供していないようですし、客層もバラバラ。よくあるカフェにしか見えません。あのお店について知っていることを教えて下さい」
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