隠されていた事件

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 松樹が腕を組んで唸る。 「あそこは一家で経営してるのよ。おじさんがお菓子作りをしてて、他に一人アルバイトの人がシフトで軽食を作ってて……おばさんとあやちゃん――娘さんがフロアとレジをやってるわ」 「ああ、あの女の子は娘さんだったのですか」  いちご大福を買う時に少し困らせたことを思い出して、杉元が苦笑する。 「そうよ。可愛いし清楚な感じだからモテそうな子。何? タイプなの?」 「いえ、そういうわけではありませんが……しかし、ごくごく普通のお店で――売り物は創作和菓子なのですよね? 値段もリーズナブルな設定ですし……メニューはどうなのですか?」 「売り物をお店で食べられるのと、スパゲティとかトーストとか、喫茶店で出しそうなものぐらいしかないわ。セットで千円いくかいかないかぐらい」  やはりあの店自体に何かあるわけではないだろう。 「それでは、あのお店に来るお客さんの中に芸能人やセレブがいたりすることはありますか?」 「さあー……」松樹が思い出すように宙を眺める。「雑誌とかテレビは来たことあるらしいけど、有名人のサインとかはないし、聞いたこともないわね。いるお客さんたちも普通の人ばっかりだったし。そんな雰囲気」 「だとしたら、やはりただの偶然ではないでしょうか」  そんな杉元の発言に、松樹が思いっきり眉をしかめる。 「だからどうしてそうなるのよ。だって、三人もあそこで食べた後に狙われてるのよ」 「いえ、そうではなくてですね……あの店舗がたまたま使われたという可能性もあるということです。例えば、犯人は強盗で襲う相手は誰でも良かったという状況です。どこで襲撃するかがポイントになるわけですよね? つまり、人の動線が予測できる場所なのですよ」 「……言いたいことは分かるわよ。あそこは駅から少し離れてるし道もある程度決まってるから、駅に行くルートは限られてるってことでしょ? だったら、駅のトイレとか違う駅で襲われたりしたのは何で?」 「人通りが少ないと言っても、偶然誰かがいたのかも知れません。襲うタイミングを逃してずるずるとついていった可能性もないとは言えないでしょう?」  松樹が鼻を鳴らす。唇を噛みながら眉根を寄せて目を閉じる。しかし、何も思いつかなかったように息をぷはっと吐いて、髪を脇に避けながらベンチにもたれかかった。 「ねえ。奪われたものは何だったの?」
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