隠されていた事件

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「私たちで調べりゃいいじゃないの。自分で事件解決したいんでしょ、ホントは」  松樹の手を振りほどき、むせながらネクタイを緩める。 「げほ……ですから、僕はもう捜査できないのです。事情を汲んでください。警察として事件が解決するでしょうから、待っていていただけますか?」  松樹がじっと見上げてくる。 「だから何なの? 二回ぐらい聞いたけど。何の事情があるっていうの?」 「……言えませんし、そもそも松樹さんには関係のないことです」  その言葉に、松樹は唇を尖らせて唸った。 「本当に諦めちゃうわけ? 犯人の映像だって持ってこれて、証言だってとれて――あともうちょっとじゃない。その手で犯人に手錠かけたいんでしょ、ホントは」 「ですから、煽っても無駄ですよ。これまでのご協力には感謝いたしますが、ここまでです。昨日もお話しましたが、これからはご自分で情報収集してください。それと……もう僕の親類だと嘘を言わないように」  そうきつめに伝えると、杉元はファイルを抱えて刑事課の島へと向かった。横山に資料一式を返し、ベンチには目もくれずそのまま階段で一階へと降りていく。 「あれ? はとこちゃんは?」  自分のデスクに戻ると、資料に目を通していた課長が顔を上げてあたりを見回した。 「帰るようですよ。もう邪魔はさせませんので、ご安心ください」 「え? もう来ないの? 可愛いのに。ちぇー」  すると、課長が杉元の背後へと手を振った。  おそらく松樹が降りてきたのだろう。しかし彼女は杉元へ声をかけることなく、入口に置いてあったキャリーバッグを引いて署の外へと出て行った。  やるせない気持ちが沸き上がってくる。だが、このまま流されるわけにはいかないのだ。仕事に没頭して忘れようと、ノートパソコンを開いて今日の仕事に着手した。  この二日間でやることは溜まり始めている。テレビ番組制作会社からの道路使用許可や、マラソン大会の申請書のチェック、署のウェブサイトの更新など。  それらを順に処理していくと、気がつけば昼になっていた。三國が来ないため交通課の同僚から食事に誘われたが、一緒に行く気にはなれなかった。まだ心の中でひっかかっていたのだ。  しかし腹は減る。近くでおにぎりでも買って仕事をしながら食べようと外へ出て、少し歩いたところにあったコンビニへと入った。 「うわ……」
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