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昼食は誰かとの外食ばかりであったため、人で埋め尽くされているコンビニの店内という光景に、杉元は驚いていた。
三つあるレジに向けて十人ぐらいの人が、それぞれ弁当やパンを手にして並んでいる。その隙間を縫うようにして品物を探す人が次々と入り込んでくるのだ。
まるで配給を待つ難民のようにも見える。
早くこの場から抜けだそうと、おにぎり二つにサラダを手にして列の最後尾に並んだ――その時だった。
「万引きだ!」
叫んだ店員はカウンターを飛び越えるようにして、店の外へと駆け出した。ドアの近くにいた女性客にぶつかり、よろめきながら逃げていくのは、弁当を手にした中年の男性だ。
「ちょっと失礼します! どいてください!」
おにぎりとサラダを近くの棚に置いた杉元が、店内の客をかき分けながら二人の後を追う。
明治通りを三河島のほうへ走っていった万引き犯だったが、体力がないのかすぐに店員へと追いつかれてしまった。
これで一段落と思った杉元は、次の光景に目を疑う。
若い二十代の店員が、中年男の後頭部を思い切り殴りつけたのだ。
悲鳴を上げて倒れる万引き犯。弁当の中身がアスファルトに撒き散らされる。そこへ雪崩れ込むようにして馬乗りになった店員が、男の顔を殴り始めた。
「てめえ! この野郎! この前のもお前だろ!」
「うっ、ぐおっ、やめ、やめてくれ!」
叩きつけられた顔面から流れ出した血がアスファルトに染みていく。中年男は何とか逃げようともがいたが、さらに殴られて呻きながら抵抗を止めた。
「もうそのへんにしてください! 僕はそこの警察署の者です! ほら、もうやめてください!」
追いついた杉元が振りかぶった店員の腕をとって、中年男から引き離す。彼の顔は鼻血にまみれ、すでに意識が飛びかけているのか白目をむいていた。
店員も自分のしたことに驚きすぐに興奮が収まったらしく、この光景を見ていた杉元の同僚がすぐに駆けつけてくれて処理してくれることとなった。
そして杉元は、再びコンビニへ向かう――ことなく、署へと戻った。
思いついてしまったのだ。
連続通り魔の犯人がたまたまあの店の客を狙っていたのではなく、店員が犯行を行っていたのだとしたら。支払いを済ませた客の後をついていって殴り倒した、その動機は客の側にあるはずだ。
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