隠されていた事件

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 いいレストランや菓子を、自分の足ではなくネットで探す時代。レビューサイトに投稿される星の数が、店の客足、すなわち売上に直結する時代なのだ。その客が悪いレビューをネットにあげたとしたら、店側はどう思うだろうか。それが悪口雑言や誹謗中傷なら、気分が悪いどころでは済まない。  つまり、被害者たちは店に悪影響を与えるような内容をネットに投稿したのではないだろうか。少なくとも、店のスタッフがそう感じたとしたら。  ヒントは二つあった。証拠とまではいかないが、殺された西谷はスマホで写真を撮影した形跡があったし、重症の男性は携帯を、意識不明の女性はスマホを壊されていた。そして、西谷はドライフルーツの羊羹と青汁というキワモノを食べていたのだ。 「あ、ヤマさん! ちょうどいいところに!」  荒川中央警察署へ戻ると、杉元は真っ先に二階へと駆け上がっていった。食事へ行くところなのか帰ってきたところなのか、階段の近くにいた横山に声をかける。 「連続通り魔事件で、被害者が和洋菓子本舗で食べたものって覚えてますか?」 「ん? あー、あの和菓子だか洋菓子だかって店のか?」 「ええ、そうです。何を食べたとか、聞いてますか?」  記憶の泉を探っているのか、横山は宙を眺めながら右手をひらひらさせて笑った。 「そういや、青汁だか何だかのセットを頼んだとか言ってたな。わざわざ昼飯に苦いもんを飲むたぁ、気が知れねえよ」  やはりだ。杉元の直感は、これが事件の真相だと告げていた。 「店って調べました? 店主とか店員とか」 「ああ、誰かが聞き込んだらしいけどよ。これまで目立ったトラブルもねえし、儲かってるらしいぞ。何しろ、来年の春、娘の卒業に合わせて全面改装するとか言ってたらしいからな」  杉元は一瞬、戸惑った。しかし、その筋もあって然るべきだろう。儲かっているなら、なおさら悪口には敏感になっているはずだからだ。その気持ちが暴走したとしてもおかしくはない。 「そうなんですか。その……店主とか店員に怪しいところはなかったのですか?」 「一つあるっつったら、店の親父が元プロレスラーってのを隠してたってことだな」 「ぷ、プロレスラー?」
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