隠されていた事件

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「警察です! やめなさい!」 「うらぁ!」  その言葉に店主は動じず、駆け寄ってきた勢いで木の棒を杉元に叩きつけた。避ける間もなく、それを組んだ両腕で受け止める。鈍い痛みが骨に伝わった。  次に店主はミドルキックを入れてきたが、杉元は身をよじってその太い足を躱す。店主がバランスを崩した。一瞬の隙ができる。その鼻先めがけて拳を叩き込もうとして――杉元の腕が止まった。  しまったと思った時にはもう遅かった。 「うがぁっ!」  店主が木の棒で杉元の顔を殴りつけたのだ。鈍い音と激痛が走り、鼻の中を熱いものが垂れてくるのが分かった。よろめき倒れそうになるのを何とか踏みとどまる。もう一発殴られそうになったところを、すんでのところで避けた。さらに勢いをつけて殴りかかってきたのを躱したが、杉元は反撃することができなかった。  その間を突かれて、今度はケンカキックを腹に受ける。一瞬息が止まり、アスファルトに尻もちするように倒れこんだ。  まずい。分かっていた。だが、手を出してしまえば、もっとまずいことになる。 「やめて!!」  店主の肩越しに、松樹の悲鳴がガラガラという音とともに聞こえてくる。 「ま、まふゅきさん!」  松樹がキャリーバッグを前にして猛突進してきたのだ。 「う、おわっ!」  避ける間もなかった店主はキャリーバッグに腰を打たれて吹っ飛ぶと、そのまま後ろ向きに弧を描くようにして――後頭部からアスファルトへと落ちた。勢いでサングラスと帽子が吹き飛ぶ。 「うわっ!」  痛みに顔を歪めながら起き上がろうとする店主。その足に引っかかって、今度は勢いをつけたままのキャリーバッグが低く飛んだ。ハンドルを掴んだままの松樹の体も一緒に宙を舞う。そして――、 「うげっ……」  キャリーバッグが着地したのは、店主の頭だった。もう一度アスファルトに後頭部を打ち付ける。  そのまま投げ出された松樹は白いスカートをはためかせながら一回転すると、 「ぐぇっ!」  杉元の顔にその尻を押し付ける形で着地した。 「ふぉ、ふぉいへふははい!」 「ご……ごめん!」  松樹の腰を持って横にどかすと、杉元は起き上がって深呼吸した。少しふらつきながらも、店主の上半身に覆いかぶさっていたキャリーバッグを下ろす。  彼は白目をむいていた。力なく広げた太い腕が痙攣しているところを見ると、死んではいないらしい。 「だ、大丈夫?」
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