隠されていた事件

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「そう簡単には死にませんよ。ですが……元プロレスラーとあって、やはり強かったですね。重みが違いました」 「こいつが、か……」  三國は横のベッドに横たわっている店主を見やった。盛り上がっている胸の筋肉と太い腕が、元格闘家であることを物語っていた。傍らにいる女性の看護師も不安そうにその様子を伺っている。  すると――彼は、ゆっくりと目を覚ました。  その場にいた全員が店主に視線を向ける。最初はぼんやりと天井を見つめていたが、はっとして起き上がった。  そして最初に杉元の顔を見た彼は、 「おめえか! 何だここは! 娘はどこにいる!」  そう叫んで、ベッドの脇につけておいた手錠をガチャガチャと鳴らしながら暴れだしたのだ。  側にいた女性の看護師が驚いて倒れそうになるのを、杉元が受け止めて脇へと逃がす。 「おい、落ち着け! ここは病院だ!」 「何だ、てめえは! 娘を返せ! うおおーっ!」店主はベッドから降りると、手錠をつけたまま、ベッドごと持ち上げだした。「娘はどこだーっ!」 「馬鹿野郎! やめろ!」  三國がその巨体を押さえつけつつ、杉元は凶器となるベッドを投げさせないように掴む。 「落ち着け! ここは病院だと言っただろ! あんたは傷害の現行犯で逮捕されたんだ!」 「警察か! まさか静子が通報しやがったのか!? あのブログ書いてる女を連れてこい! あいつが知ってるんだ!」  この騒動を聞きつけたのか、処置室の入口から医師や看護師たちが何事かと顔を覗かせている。 「松樹さんのことですか? 彼女は私と取材で待ち合わせをしていただけです。いったい、何が起きているのですか。とりあえずベッドを下ろしてください!」  二人がかりなのに、まだ押さえつけられない。元プロレスラーとは言え、鍛錬は怠っていないのだろう。 「嘘つけ! あいつがあれを食べたから……! お前らもグルか! うおおーっ!」  さらに暴れようとする店主。  杉元は徐々に怒りが湧いてくるのを全身で感じ取っていた。頭に血が昇り、また鼻血が出てくる。かっと目を見開いて大きく息を吸い、 「てめえ、いい加減にしねえか! ブチ殺すぞ!」  と、怒鳴った。  あまりにも大きなその怒号に、店主がはっとして動きを止める。医師と看護師たちも同じように目を丸くして杉元を見ていた。  その隙に杉元はベッドを降ろさせ、三國が店主を押し付けるようにしてそこへ座らせた。
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