隠されていた事件

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 耳をつんざくような杉元の怒鳴り声で気勢が削がれたのか、店主はぽかんとしたままあたりを見つめていた。  杉元は医師からガーゼを受け取ると、流れる鼻血を押さえながら店主に向かって頭を下げる。 「大声を出してしまって失礼しました。僕は荒川中央警察署、交通課の杉元と申します。こちらは同じ署で刑事課の三國刑事」  一人だけ杉元の怒号に動じなかった三國が、スーツの胸ポケットから警察手帳を出して見せる。 「落ち着いたか? まず説明させてもらう。ここは中野にある警察病院で、あんたは、あんたと全く関係のない用事で待ち合わせてたこの杉元と一般人の女性を襲ったんだ。暴行と傷害の現行犯だから帰すわけにはいかない。ここまではいいか?」 「あ、ああ……」  店主が頷く。 「名前は木崎克也、四十五歳。日暮里にある和洋菓子本舗の経営者で間違いないな?」 「あ、ああ、そうだ。頼む、俺が警察と一緒だってことは絶対にバラさないでくれ!」 「分かった、分かったから暴れるなよ? それで、どうして二人を襲おうとしたんだ? 何があった?」  すると、店主の木崎はすっかり意気消沈したように俯いた。 「ここは安全だ。あんたに何があったか知らんが、困ってるんだろ? 話してくれないと協力できねえんだ。な?」  その呼びかけに顔を上げた木崎の目は涙で潤んでいた。 「せ……先週の金曜に」 「何があった?」 「……うちの娘が誘拐されたんだ」その言葉に、杉元と三國は息を呑む。「いつもみたいに友達と遊んでんのかと思って待ってたけどよ、帰ってこなくて……電話しても出やしねえ。そしたら、夜に若い男から電話があった。あやを誘拐したから金をよこせと」  杉元が気づいて、様子を伺っていた他の医師や看護師たちに話を聞かせないよう、処置室の扉を閉める。  その様子を見届けて、三國はスーツの胸ポケットから取り出した警察手帳にメモを取りながら続きを聞いた。 「……いくらだ?」 「一億だ。ちょうど店の改装で貯めてた金があるから、すぐに用意できると言った。そしたら、金の受け渡しを考えると言い出しやがったんだ。その後、土曜日にコインロッカーに入れろって電話があった」 「その通りにしたのか?」  木崎が首を横に振る。
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