隠されていた事件

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「何かのドラマで見たんだ。受け取ったのに金がなかったって騒ぐヤツ。俺は絶対あやを返してほしかったからよ、そんな方法じゃダメだと言ってやった。そいつらは絶対大丈夫とか言いやがったが、こっちも娘の命がかかってるんだ。そしたら、店に人をやるとか言い出した」 「犯人が来たのか?」 「いや。うちのヘルシー羊羹セットを食べたヤツが、受け渡し方法の紙を渡すって言ってた。だから待ってたんだ。……誰も紙なんて持ってこなかった」  あのメニューがトリガーだったのだ。だが、想定していた事よりも規模が大きく、慎重な行動を要する事態になっている。杉元は三國に目配せをして確認を促した。 「ちょっと待ってくれ。家出して友達や親戚のところにいるということはないか? 娘さんの生存確認は?」 「ふざけんなよ! 誘拐されたんだ!」そう声を荒らげたが、木崎は嘆くように頭を抱えた。「でもよ、最初はそうだと思った。普段から溜まってた鬱憤とかあるかも知れねえ。うちの店を継がせようとしてちょっと口喧嘩したこともあったしよ。でも、友達んとこにもいねえ、唯一の親戚は千葉に住んでる俺の姉貴だけだけどよ、そこにも行ってねえ。それに……これを見てみろよ」  木崎はジャンバーのポケットからスマホを取り出してロックを解除すると、アプリを起動してその画面を三國に見せた。  それは「あやっぺ」というアカウントがマイクロブログに投稿したもので、食べ物の写真とともに短いコメントが添えられていた。 「電話であやの声を聞いたら弱ってそうだった。だから、きちんと食わせてるのか証明しろって言ったらよ、これを見ろって言われた。あやのアカウントでよ、あやに食わせたものらしい。ここに映ってる飛行機のストラップは、確かにあやのなんだ」  白地に青いペイントがされた小さな戦闘機のミニチュアが表示されていた。日の丸が見えることから、航空自衛隊のものだろう。  アカウントのIDも含め、三國はそれらの情報を書き留めていった。杉元もスマホで同じものを控える。 「疑って悪かった。最近じゃ狂言誘拐の事件もあって確認したかったんだ。それで話を戻すが――そのヘルシー羊羹セットを注文をしたやつはいたのか?」 「……いない。いや、いた。あのブログを書いてる女がそうだった。だから追いかけたんだ」 「それだけか?」  三國の問いに、木崎は一瞬迷ったように言葉を呑んだ。
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