隠されていた事件

19/29
前へ
/212ページ
次へ
「確かにそうでした。ですが、彼の犯行はもっと大きな犯罪の中の一部でしかなかったのです。そして僕は独断で動いてしまい、結果的に人が死ぬかも知れない事態に陥らせてしまいました」 「どういうこと? 大きな犯罪って?」 「今は言えません。大手マスコミ各社にも報道規制を敷くほどの事態です」 「え……」 「それほどの大きな事件になってしまったのです。だからこそ、謹慎を命じられました」  松樹が心配そうに杉元を見上げる。 「でも……そんな、大事にはならないんでしょ? だったら――」 「二回目なのですよ。もしかしたら……ここを去ることになりかねません」 「マジ……?」 「嘘をつく必要があると思いますか?」 「ないわよね。それって……私が囮みたいなことをしたから?」  やはり気にはしていたらしい。 「松樹さんがしなくても、僕がやっていたでしょうから……一概には言えません。経過はどうであれ、事前に連絡をしなかった僕のミスであることには変わりないのですから」 「でも……」 「今となっては済んだことです」  そう言って、杉元は周りを見渡した。  この駐車場に車を停めて出勤することもできなくなるのかも知れない。そうなれば、三國とも会う機会が減っていくだろう。  警察以外の世界を知らない自分だ。二十代半ばとは言え、できる仕事は限られてくるだろう。  いや、今は考えたくない。杉元は首を振って、自分の中から沸き上がってくる悪い考えを振り払った。 「しかし、松樹さんの力なしでは今の状況も含め、様々な真実にたどり着くことはできなかったと思います。本当に色々と助けていただいて、ありがとうございました」  それは心からの言葉だった。深く頭を下げる杉元に、松樹も恐縮した顔で頷く。 「それでは、ここで失礼します」  運転席へと回りドアを開けて乗り込もうとした時だった。追いかけてきた松樹の手が杉元の腕を掴んだのだ。 「ねえ。何回も聞いたけど……前にいったい何があったの?」  ここまでしてもまだ食いついてくるのか。  杉元は声を荒らげたい気持ちを抑えながら、それを言うことはできないと松樹に告げて運転席に乗り込む。すると彼女が、今度は助手席に回ってドアをばんばんと叩きだした。やむなくウィンドウを下げる。 「ですから、これだけは申し上げられないと――」 「送ってってよ」  松樹はウインクした。 「は……?」
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加