隠されていた事件

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「電車で行けるではないですか。ほら、着きました。今、下ろしますから」 「いーじゃない。話しついでに行ってくれたって」 「僕は家に帰るのです。松樹さんもどこかの家だか施設だかに帰ってください。今度お時間がある時にお話しますので」 「その今度っていつよ? 今日の夜? 明日?」 「今度は今度です。まあ、次に連絡をいただいても電話に出れないかも知れませんが」 「何よそれ、追っ払いたいだけじゃないの」 「そういうことです」  松樹が唸る。 「それじゃ、これでお別れってことね」  駅前に車を停めると、松樹は諦めたらしくしおらしい口調でそう言った。そしてリュックの中をあさると、一本の栄養ドリンクのようなものを渡してくる。 「何か顔色悪いから、これ餞別にあげるわよ。元気出るんだって。けっこう効くらしいわよ」  松樹が差し出してきた濃いブラウンの小さなビンを、杉元は胡散臭そうに見つめる。しかしこれが最後でもあるし、飲めないほどまずいのであれば捨てるだけだと受け取った。 「あ、今飲んじゃってね。駅で捨ててくるから」 「はあ。では、いただきます」  元気をつけたところでやることはないが、好意は無下にできないと、杉元はビンの蓋を開けて一気に飲み干した。 「う……ごっ!?」鼻につーんと抜ける匂い。そして、喉から食道にかけて焼けつくように熱くなる感覚。「ご、ごほっ! な、何を飲ませたっ……!?」  ニヤリと笑う松樹。 「大丈夫、毒じゃないわ。ただのアルコールだから死ぬことはないわよ。ただ、フランスのラム酒で七十度あるらしいけど」 「あ、アルコール? げ、げほっ! げぇほっ!」  駅の明かりに照らされた杉元の顔が、みるみる赤くなっていく。 「さーて、もうこれで車は運転できないわよね、交通課のお巡りさん? さ、交代してちょうだい。家まで送ってあげるから。そしたらゆっくり話を聞こうじゃないの」  杉元はむせながら、満面の笑みを浮かべた松樹を睨みつける。 「な、何て女だ……」 「お、その口調。いいじゃない。いよいよ素が出てきたってわけね。ほら、早く下りてよ。じゃないと駐禁とられちゃうわよ」 「乗車しているからそれはありえません……ごほっ……くそ……」  しかしこの状態で見つかってしまえば懲戒免職は避けられない。杉元はくらくらする頭を押さえながら松樹に運転を代わってもらい、家ではなく近くのコインパーキングに車を停めさせた。
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