第1章

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 ベッドに腰かけたあたしの返事にうんうんと肯定する三人──いや、三個。何か違うわね。しっくりこないから三匹でいいや。 「でもさ、オオグチとはほとんど同い年、タテロールはまだ二年ぐらいだけどシチサンとは十年の付き合いになるのに、どうして突然話せるようになったわけ? 年齢? それとも他に何かあるの?」 「それは分からないですわ。パトリシア様は物心ついた時から話せるとおっしゃってましたし。シチサンはまだ誰とも喋ったことがなかったのですわよね?」 「ああ。俺はひよりが初めてだなオオグチは理由を知ってるんじゃないのか?」 「ワシも三十歳になるがの、言葉が通じたのはひよりを入れて二人じゃった。もう一人は頼子が旅先で出会った子供での。あれじゃろ、ひよりが風邪をひいたからに相違あるまい」  え、そんな理由かよ。 「風邪っぴきなんてそこらへんにたくさんいるじゃない。真冬の病院なんて行ったら、それこそみんなモノと喋れるってこと? そんなの聞いたことないわよ?」  ふむ、とオオグチが鼻を鳴らすような声を出した。 「頼子が知り合った子供――亮太と言ったかの、あれもそれまでは風邪ひとつひかん元気な子だったそうじゃが、突然インフルエンザにかかったと言っとった。パトリシアって嬢ちゃんは小さいころから体が弱かったんじゃろ? あとの要因は知らん」  何かこう、ある日突然不治の病にかかってその代償として能力を授かるなら、ハリウッド的な感じがするししっくり来るんだけど──薬飲んで栄養つけてゆっくり休めば治る程度のものでこんな力がついたなんて、恥ずかしくて誰にも言えやしないじゃない。  このことを亜希や芽衣子に話したら、悲しそうな顔で諭されそうで怖いわ。 「悲劇のヒロインになりそこねたその他大勢みたいな顔をしてどうしたんだ、ひより」 「あんたはエスパーか!」  と、シチサンにツッコんだところでくしゃみをひとつ。  三匹が喋りだしたのに驚いてすっかり忘れてたけど、お風呂に入るところだったのよね。 「とりあえず汗流してくるから」ごく自然にブラウスのボタンを外そうとしてはっと気づく。「……ところで今更だけど、あんたたち目は見えてるのよね?」  あたしの質問にタテロールがうふふと笑う。
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