第1章

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 でもお気に入りの白いリボンのポニーテールが可愛さを出してるのよね。 「いや、だって……」と、亜希の視線がタテロールに向けられる。「ピンクのシャツにスカートで足出してるの滅多にないから。……何、まさかデート?」  ほら、やっぱり言われた。 「ひより、正解でしたわね。わたくしのアドバイスのお陰で褒められてますわよ? 毎朝コーディネートして差し上げますわ!」 「やめてよ、あたしは着せ替え人形じゃないっての」  朝ちょっぴり早く起きたら、タテロールがあれを着ろこれを合わせろとうるさくて、嫌々言うことを聞いてたら合コンでも行けそうな感じに仕上がっちゃったのよ。  結局時間がなくなりそのまま出てきた始末。  しかもオオグチとシチサンがニュースを見たいとわめいてたから、テレビの前に二匹を置いてケーブルのニュース専門チャンネルをつけたままで出てきちゃったし。電気代が心配だわ。 「着せ替え人形? 私はそんなメール送った覚えないよ?」  亜希がきょとんとした顔で聞いてくる。  しまった、タテロールの言葉はあたししか分からないんだった。 「いや、その……ほら、気分転換よ。不景気で世の中暗いし、あたしぐらい明るく行かないとって」  左手の棚を鍵で開けて中から作業用のノートパソコンを取り出しつつ、適当に言い訳をしながらタテロールと一緒にデスクへ置く。 「まあ、何か変わろうとしてるってことね。変化を嫌うひよりにとってはいいことだけど、ゴールデンウィーク明けで気合入れた服着てこられたら何かあったって思うでしょ?」  と、向かいの亜希が微笑をたたえていた。完全に勘違いしてるっぽい。 「えっとね、そういう話は一切ないから」  引き出した椅子に腰を下ろしてパンプスを脱ぎ、サンダルに履き変えて伸びをする。 「いいから喋っちゃいなさいな。誰? 会社の人? お客さん?」 「それは──」 「おはようございます」  適当にごまかそうとした言葉を、入ってきた人の挨拶で掻き消された。 「おはよ、麻由美」 「おはよう、遠藤さん」  部屋に入ってきたのは、やっぱり同期の遠藤麻由美。と言っても入社した時期が同じなだけで、うちには協力会社から出向してる別会社の子なの。  片方に結った長い髪とメガネが優等生っぽくて、今日はホワイトのテーラードスーツで大人の色気が漂う知的なお姉様って感じでご登場。 「ひよりさん、今日は雰囲気違いますね」
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