第一章

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月明かりに照らされてアルバス帝国の帝都アルカディアは幻想的な世界を創りだした。 それは大陸屈指の美しさと言っても過言ではない。 あちこちに魔道具と呼ばれる魔法のランタンが宙に浮き、小さな精霊が輝く粉を振り撒き、夜空には翼を持つ馬ペガサスが駆ける。 逆に、これを幻想的と言わないで何と言うのだろうか。 そしてそんな帝都の端にある家でブツブツと呪文のようなものを口にする男の姿があった。 その部屋は本や紙が散らばり、中心には大きな大きな魔法陣が描かれている。 きっと彼が呟いているものは呪文のようなものではなく呪文なのだろう。 片手には先端に水晶が埋め込まれた見るからに高級品の杖を掲げていた。 身を包んでいるローブも上等なものだ。 そしてとうとう呪文を言い終えたのか、彼は突然大声をあげた。 「完成だ!これで、これで長年の夢が叶うぞ!開くのだ異界の扉よ!」 彼が発動させたのは異世界との道を繋ぐ高難易度の魔法だった。 今までにこの魔法を発動させ、成功させた者は歴史上存在していない。 魔王を倒し、無限の魔力がある勇者でも無理だったと聞いている。 まあ実際には挑戦していないの間違いではないと疑っているのだが……。 どちらにせよ、彼が初めてそれを成す人物……になる予定であった。 叫んだのもつかの間、その魔法が発動したようで中央にある巨大な魔法陣は不気味な音を放ちながら光始めた。 「おお!成功か!?」 男が歓喜の声をあげた。 だが世の中そう甘くはない。 確かにそれは成功したかに見えたが、それは暴発の予兆であったのだ。 何かが割れたような音が部屋に響き渡り、それは一瞬にして家を飲み込んだ。 幸いなことにそれは帝都を消滅させるほどの威力はなかったようだ。 しかし、爆発の発信源にいた男は声をあげる暇もなく息絶えた。 彼のことを知るものは誰もいなかったという。
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