第1章

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 「あぁ。またか」  「まったくだ。とにかく裏付けとるぞ」  俺と相棒は犯人の裏付けを取りに出かける。どうせ空振りだろう。俺達が逮捕した被疑者は連続窃盗犯だ。自供によると数十件の窃盗を繰り返している。その裏付けに来ているのだ。  「ここも何回来たかな」  俺と相棒はとある宝石商に来ていた。見慣れたドアを開け中に入る。  「またですか? 何も盗られてやしませんって」  店の主がうんざりした様子で言う。  「ああ、だろうな。一応念のためだ」  「もう、いいかげんにしてくださいよ。うちが泥棒に入られたのは二年も前の事ですよ!」  「仕方ないだろう。被疑者がここで盗みを働いたって言うのだから。俺達も仕事なんだよ」  「何も盗られていません!」  「そうか、邪魔したな」  また無駄足か。俺も相棒も足が重い。  結局、今回も被疑者の自供の裏付けを取った結果、実際に被害を確認できたのは、逮捕のきっかけになった一件だけだった。  「結局、はじめての窃盗だったって事か」  「ああ、いつもの事だ」  俺と相棒は署内のロビーで紙コップのコーヒーを飲んでいる。この相棒とはちょっと前からコンビを組んでいるのだが、気があった。お互いの好みも似ている、たばこの銘柄も一緒だった。こんなふうな無駄足ともとれる捜査の中で、それだけが救いだった。  一年前からだ。一年前から窃盗で捕まえた被疑者のほとんどが、同じ店での窃盗を自供する。同じ動機、同じ手口で同じ品を盗み、同じルートで売り捌く。  俺達は被疑者の裏付けを取る。裏付けが取れなければ検挙はできない。裏付けが取れるはずがない。同じルートで売り捌くって言っても、そのルートはとっくに摘発している。  基本的にありえないのだ。  理由は分かっていた。二年前、ある研究所が、ある研究結果を公表した。  人の過去を自分のものにするというものだった。それは小型のマイクロディスクで、中には人の記憶が納められている。そのディスクに入っている音楽を聞くと、そのディスクの中の記憶が聞いた者の記憶と入れ替わると言うものだった。  人の記憶を自分の物にできるというのは大変魅力的で、全国的な関心を呼んだ。しかし政府は危険だとして、その研究をやめさせた。
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