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考えれば、その研究が恐ろしいものだというのは理解できる。そのディスクを聞いたものは、みな同じ記憶を持つことになる。同じ両親の元に産まれ、同じ学校に通い、同じ所で同じ相手とデートした者がたくさん出る、というあり得ない事が起こるのだ。
もっとも、記憶上だけでの話だが。記憶上だけでの話なのだが、その本人はそれを本当の記憶として生きて行くのだ。
ともあれ、研究が中止されたことにより、巷の話題にのぼる事も少なくなり、人々は忘れていった。
俺達が苦労しているのは、どうやらその研究のせいらしい。一年前に逮捕した窃盗犯が、記憶を売ったと証言したのだ。売った相手は『あの研究所』だった。
それからだ。その窃盗犯と同じ記憶を持つ被疑者が増えたのは。どこかで、窃盗犯の記憶のディスクが出回っているとしか思えない。
「どうやら。ネットでダウンロードできるらしいぞ」
ネット犯罪課の課長が俺達に言いに来た。
「ネットで?で、見つかったんですか?そのサイトは?」
「いや、まだだ」
「早いとこ見つけて下さいよ。うんざりなんですよ、もう」
相棒が力なく訴える。俺も全く同じ意見だ
とその時、俺の携帯が鳴る。
「いまどこだ? 署内? また窃盗したと自首してきた者がいる。また連続窃盗犯だ。一応調書とってくれ」
電話口から聞こえたのは上司の声だった。上司の声も、どことなく元気がない。上司も俺たち同様に疲れているのだろう。
「何だって?」
相棒が尋ねる。
「まただってよ」
俺はため息交じりに答えた。そのディスクを処分しない限り、ずっとこの様な事が続くのだろう。
心身ともに疲れた俺と相棒は、たまには息抜きするかってことで、居酒屋で一杯やることにした。
「ところで、お前はなぜ刑事に?」
相棒が俺に酌をしながら聞いた。
「俺か? 俺は本当は捜査一課の刑事(でか)になりたいんだ。昔、TVドラマを見て憧れてってやつだ。ありきたりだろう?」
俺は照れ隠しで自嘲気味に笑いながら答えた。
「お、奇遇だな! 俺もなんだ。俺はザ・刑事魂ってドラマを見てだ」
相棒が懐かしむように言う。俺は何か違和感を覚えた。
「俺も同じだ。だが、よく知ってるな。そのドラマって人気がなかったのか、すぐに終わったやつだぞ」
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