プロローグ

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 もっと言えば、自分の気持ちを表現するのが苦手だった。  端的に言ってしまえば、コミュ障というやつだ。  だからだろうか。  大勢の人が集まる場所は好きじゃなかった。  いつの間にか、寂れた公園が自分の居場所になっていた。     ****  気づけば公園にいた。  ――夢?  知識として明晰夢という現象があることは知っていたが、なんだか不思議な心持ちだ。  そこには、自分の他に一人の子供がいた。  その人もいつも本を読んでいた。  なにか仲間意識というか、共感めいたものを感じはしたが、自分は結局話しかけることが出来なかった。  ただ、それでよかったんじゃないかと今では思っている。  遊具一つなく、人の気配がない公園。  ぽつんと取り残されたように置かれた二つのベンチ。  片方に自分が座って、もう片方にその人が座る。  お互いに無干渉で、ただ静かに本を読む。  二人の空間ではなく、一人と一人の空間だから、心地よかったのだ。  居心地のいい空間をわざわざ居心地が悪くする必要はない。  たとえ、それが逃げでしかないのだとしても、それでいいはずだ。
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