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一、紫苑 四月七日(日)
懐かしい夢を見た。
小学生くらいの頃だ。
公園でいつも会う女の子がいた。
本当にそれだけで、例えば、その女の子と恋に発展しただとか、その女の子が凄いお嬢様でとか、そんなフィクションじみた物語はない。
ぼくと彼女は、ただ同じ空間にいて、二人揃って静かに本を読んでいるだけの関係だった。
それを関係と呼んでいいのかは、正直微妙だな。
たまたま図書館で近くの席に座っていたとかそういうレベル。
薄情な言い方をしてしまえば他人だ。
どうして今になってそんな夢を見たのかについては、思い当たる節がある。
身体を起こして時刻を確認すると、既に正午を迎えていた。
いくら春休みだとは言え、少々自堕落に過ぎるかもしれない。
明日からは学校だし、今日は早めに寝よう。
朝食兼昼食を済ませて外へ出ると、春風がそよそよと吹き、暖かな日差しがぼくを照らす。
眼前に広がるは田んぼの多い田舎臭い風景。
それを見て心に湧き上がるのは、懐かしいという感情だった。
小学生の頃、ぼくはこの辺りに暮らしていた。
親の都合で中学に上がると同時に引っ越し、四年間を経て、再びこの地に舞い戻って来たというわけだ。
馴染み深い土地を歩く。
流石に四年ぶりだと記憶も曖昧になっていたが、歩いているうちに蘇ってくる。
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