第1章

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 「この時期が一番忙しいから、みんな、そのつもりで務めてくれ」  そう上司が皆を集めて言ったのは昨夜であった。私はこの仕事は二年目で、昨年は何が何やらわからないまま深夜を迎えた。今年も時計の日付が変わると途端に忙しくなった。  「君、これを交通課に、そしてこっちは医療課へ持って行ってくれ 」  私は言われるままに手渡された書類を持って行く。  「君、この案件は本人の申請かね? 」  医療課で手渡した書類を見た担当の者が尋ねてきた。その書類には見覚えがあった。私がはじめて担当した案件であったからだ。  「いえ、本人ではありません。親族……息子さんの申請です 」  「ふむ、そうか。で、本人の申請は何かあったかね? 」  「それが、ご本人は逆に息子さんの件で交通課と安全課へ申請されました 」  「ほう。そうかね。やはり親だな。で、この申請について他の条件は満たしているか? 」  「はい。身上調査ではクリアしております。しかし…… 」  「ん? しかし、なんだ? 」  「はい。母親の件で財政が厳しいのか、申請料が昨年より少ないのです 」  担当者は私の顔を見て「にこっ」と笑うと  「この申請を受けたのは君だね。君はどう思うのかね? 」  と問うてきた。  「はい。私としましては受理してあげたいと思います。記録によると度々申請に訪れているようですし…… 」  「よし、それでいい。我々の仕事はお固いお役所仕事ではいけない。君の判断を尊重して、この申請を受理しよう 」  「はい。ありがとうございます 」  こうして私の初めての案件は受理された。これであの親子の笑顔が見れると思うと嬉しかった。  また、窓口に戻る。次から次へと申請者がやってくる。多くは安全課への申請で、続いて交流課への申請だ。この仕事につくまで交流課の申請がこれほど多いとは思わなかった。  交流課の仕事は難しいらしい。先輩が話していた。  「交流課の案件は難しい物が多いんだ。何せ相手のいることだからね。申請される相手は、別の交流申請をしている場合も多いんだよ 」  そう言う物なのだろう。確かに私が申請する立場だった頃は、毎年、違う交流申請を出していた時もあった。私の場合は結局、一度も申請が通らなかった。  そんなことを考えていると、また上司に呼ばれた。
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